2010-01-01から1年間の記事一覧
CWA賞レースで、スパイ・冒険・スリラー部門賞にあたるイアン・フレミング・スチール・ダガーを「チャイルド44」と争って惜しくも敗れた『犯罪小説家』だが、そんな世評の応援もあってか、作者のクレッグ・ハーウィッツ自らが第二のデビュー作と語る自信作の…
先に同じ叢書から刊行された二冊のラジオドラマ集は、落穂拾いどころか、クイーンの真髄に再びふれる作品揃いに嬉しい驚きを覚えたものだが、その成功を追い風に登場となったのが、このシナリオ・コレクションと思しい。飯城勇三編『ミステリの女王の冒険 視…
スペインという国籍とエンタテインメントとして型に嵌まらない面白さから、ふと数年前に紹介されたカルロス・ルイス・サフォンの「風の影」を思い起こしたりもする『螺旋』は、サンティアーゴ・パハーレスという新鋭の作家が、二十五歳の若さで書き上げた処…
読書好きにとって古書というテーマは、まさに猫に鰹節だが、ピュリッツァー賞作家であるジェラルディン・ブルックスの『古書の来歴』は、五百年前にスペインで作られたと伝わるユダヤ教の貴重な写本をめぐる物語である。民族紛争の深い爪あとが残るボスニア…
タイトルもそのものずばり、エイリアン・アブダクション(異星人による誘拐行為)を描く『THE 4TH KIND フォース・カインド』は、ナイジェリア人の血をひくオラトゥンデ・オスンサンミ監督のおそらくは初メガホン作品。不眠症患者や行方不明者多数、FBIの出…
劇作や映画の脚本で有名な双子、アンソニーとピーターのシェーファー兄弟には、二十代の若かりし頃に合作チームでミステリ小説に挑戦していた時代がある。期間も短く、長編もたった三作しか残ってないが、そのひとつ『衣裳戸棚の女』の妙に人を喰ったところ…
今年の年明け早々、アンジェイ・ワイダがまだ生きていたことに感心してしまった罰当たりな映画ファンのわたし。しかし、昨年末に日本の観客のもとに届けられた『カティンの森』は、今から三年前の御歳八十で撮った作品とのことだが、ちっとも年齢を感じさせ…
リチャード・マシスンの原作を「ドニー・ダーコ」のリチャード・ケリー監督が映画化した『運命のボタン』がいよいよ5月8日から公開されます。主演は、キャメロン・ディアス。すでに、同原作を表題作にしたマシスンの新編短篇集がハヤカワ文庫から刊行されて…
ジョージ・D・シューマンの『最後の吐息』は、盲目の超能力者シェリー・ムーア・シリーズの第二作にあたる。ヒロインのシェリーは、死者の手を握ることによって死に際の記憶を読み取ることが出来るが、その特殊な力を捜査当局から見込まれて、前作『18秒の…
怪盗ニック・ベルベットや医師のサム・ホーソーンなど、日本独自に彼らの事件簿がまとめられるほどエドワード・D・ホックのシリーズものは人気を誇ってきたが、短篇のマエストロとしての仕事は、それらの作品集に限ったわけではない。以前刊行されたノンシリ…
この新刊が書店に並ぶや、同時に古典的な名著として名高い本家作品の方も俄に売り上げを伸ばしたとか。十九世紀のイギリス文壇を代表する作家のひとりジェイン・オースティンの代表作を、セス・グレアム=スミスが血みどろのゾンビ小説に仕立て直して話題と…
非英語圏からの優れたミステリの紹介が続いているが、ドイツのフィツェックやスウェーデンのラーソンらと並んで話題になるであろうマルティン・ズーターは、スイスからの登場だ。英国推理作家協会のダンカン・ローリー・インターナショナル・ダガー(最優秀翻…
全盛期は年に一度届けられる読者への贈り物だったフランシスの長篇だが、晩年はそれに替わって短篇集が届けられた年もあった。 新刊を手にとって、いつになく薄っぺらなのに驚き、あれれ大丈夫かな、と思ったディック・フランシスの前作「騎乗」から、ほぼ一…
「再起」以降は、実質息子フェリックスの作であることは公然の秘密だとして、生涯のパートナーであり、創作にも手を貸していたといわれるメアリー(2000年に死去)がどの作品に協力していたかは明かされていない。ともあれ、1997年に出たこの「敵手」は、フ…
『祝宴』は、復活した新生ディック・フランシスの第二弾。怪しいと思っていたがやはり合作者がいて、今回から息子のフェリックス・フランシスも連名でクレジットされるようになった。今回は馬の調教師を父親に持ちながらシェフとして成功した主人公が、自分…
新競馬シリーズ(あえてそう呼ぶ)の第一弾。以下にも懐疑的に書いたように、正直ファンにはいかにも不自然な復活に映ったが、後の展開から考えると、息子のフェリックスが手を貸して、いやほとんど彼の作品であったことは間違いのないところ。とはいえ、こ…
「再起」で鮮やかな復活を遂げ、その後は父ディックと息子のフェリックスのフランシスの親子連名作品となった新競馬シリーズも、『拮抗』で早や四作目。今回の舞台に選ばれたのは、競馬専門のブックメーカー(賭け屋)の世界で、英国競馬界におけるオッズを…
「クリスマスに少女は還る」がリリースされた時点でキャロル・オコンネルの名を記憶していた読者がいたとするならぱ、その人は相当のミステリ通だろう。それくらいに、オコンネル作品の初紹介は地味で目立たないものだった。その作品とは、九四年に竹書房文…
キャロル・オコンネルのマロリーものの第二作にあたる『アマンダの影』。前作の「氷の天使」で停職をくらっていたマロリーだが、彼女のブレザーを身に付けた死体が発見されたことから、捜査の第一線に復帰する。遺された手がかりである未刊の私小説原稿をめ…
翻訳者の務台夏子さんが、本日の〈翻訳ミステリー大賞シンジケート〉で『少女はクリスマスには還る』をイチおしとして取り上げているが、それによると新作の翻訳紹介が待機しているらしいキャロル・オコンネル。久々の登場に期待が膨らむオコンネルの旧作と…
戦後間もなく出た「迷路の殺人」を皮切りに、版元や訳者を替わり、形態を変えながら紹介されてきたロバート・ファン・ヒューリックのディー判事ものだが、シリーズに未紹介の虫食いがあるのと、絶版、品切れになるケースが多いので、読者を悩ませてきた。しか…
体系的な紹介を期待するのではなく、何が出てくるか判らないびっくり箱的な興味で新刊を見守っている光文社の古典新訳文庫だが、そうか、これを出したか、と唸らされたのがアルフレッド・エドガー・コッパードの『天来の美酒/消えちゃった』だ。コッパード…
いわゆる黄金時代の末期に、コリンズ社のクライムクラブ叢書から「一ペニーでパズルを」の惹句とともに売り出された作家として有名なルーパート・ペニー。近年、別名義が明らかになったと聞くが、レギュラー探偵としてスコットランドヤードの主任警部エドワ…
コーマック・マッカーシーは、言わずと知れた現代アメリカを代表する主流文学系作家のひとりで、『血と暴力の国』や『ザ・ロード』が話題となり、近年わが国読者の間でも急速に注目を集めている。前記の二作のほかにも、九十年代に発表された『すべての美し…
さまざまな職業を転々とした挙げ句に、小説を書いてみたらあたったなんて、作家の略歴の定番みたいなものだし、同じ英語圏でも大西洋を挟んでイギリスとアメリカの両国で刊行された作品の書名が異なるというのも、クラッシク・ミステリの時代からよくあるこ…
ジャック・ケッチャムの『オフシーズン』である。ケッチャムがいわゆる鬼蓄系の作風を有しながら、その実、堂々たる小説の書き手であることは、熱心なホラー・ファンならすでにご存知だと思う。本作は、そのケッチャムが世に出るきっかけとなった幻のデビュ…
最近掲載された広告を見ると、なんでも10万部を突破だとか。本書が隠れたベストセラーとはちと怖い気がするが、映画の公開を目前にひかえ、それを記念してケッチャム作品のアーカイブを三作紹介します。 良識派が眉をしかめる中、じわじわとその評価を高め…
古典の発掘に多小の黴臭さはつきものだと思うが、ヘレン・マクロイの諸作はその稀有な例外かもしれない。先のリバイバルで読者から好評をもって迎えられたときく『幽霊の2/3』しかり。そして今回復刊なった『殺す者と殺される者』(創元推理文庫)またし…
ハメットが「マルタの鷹」を世に送り出してから今年が八十年目にあたるらしく、それを記念しての出版と謳われて登場したのが、ジョー・ゴアズの『スペード&アーチャー探偵事務所』だ。「マルタの鷹」の前日譚というこの作品、なんでもハメット遺族の公認を…
初紹介となるジョー・シュライバーの『屍車』も、あんまりな邦題が玉に瑕だが、ホラー系としてはなかなかの収穫。雪の降りしきる夜のニューイングランドを舞台に、幼い娘を人質にとられた母親が、謎の男の命じるまま町から町へと車を走らせる。前半のストレ…