喪失/モー・ヘイダー(ハヤカワ・ミステリ)

昨年四月二十七日の昼さがり、自宅でパソコンと睨めっこしていた私は、思わず「やった〜」と叫んだ。NYのグランドハイヤットからリアルタイムで届けられるツイートで、モー・ヘイダーがエドガー賞に輝いたことを知った瞬間のことである。『死を啼く鳥』と『悪鬼の檻』で心臓を鷲づかみにされる衝撃を味わいながら、そこでぱったりと紹介が途絶えてしまったこの女性作家だが、九年ぶりに届けられた受賞作『喪失』は、デビュー時の才気はそのままに、小説世界がさらに深まっていることに驚かされる。誘拐された少女たちの行方を、おなじみの主人公警部が必死に追う緊張感あふれる捜査小説には、被害者の母親らの視点などが巧みに織り込まれ、血なまぐさいサイコスリラーという先入観は、いい意味で裏切られる。いわく言い難い脇役たちもいて、シリーズの今後が気になってしょうがない。
[ミステリマガジン2013年3月号]

喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)