殺す者と殺される者/ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

古典の発掘に多小の黴臭さはつきものだと思うが、ヘレン・マクロイの諸作はその稀有な例外かもしれない。先のリバイバルで読者から好評をもって迎えられたときく『幽霊の2/3』しかり。そして今回復刊なった『殺す者と殺される者』(創元推理文庫)またしかり。半世紀以上も前に書かれたものなのに、少しも古びた印象がないのに驚かされる。
おじの遺産を相続し、亡き母の故郷へと移り住んだ主人公。しかしなぜか身辺では不可解な出来事が頻発する。やがて物語はニューロティックな心理闘争劇へと発展し、主人公の激しい葛藤が描かれるが、マクロイは人間の記憶という普遍のテーマをしっかり捕えて離さない。時代の変遷などものともしない理由はそのあたりにあるのだろうし、リニューアルなった見事な新訳に負うところも大きい。
[波2010年2月号]

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)