隣の家の少女/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

最近掲載された広告を見ると、なんでも10万部を突破だとか。本書が隠れたベストセラーとはちと怖い気がするが、映画の公開を目前にひかえ、それを記念してケッチャム作品のアーカイブを三作紹介します。
良識派が眉をしかめる中、じわじわとその評価を高めてきているジャック・ケッチャムの『隣の家の少女』。かつて、ジョン・ソールの小説が、児童虐待の代名詞のように言われたことがあったが、ケッチャムを読むと、ソールの世界は保守的な虚構にしか見えない。それほど、ケッチャムの描く現実は惨く凄まじい。
イントロは、実に叙情的だ。主人公である田舎町で暮らす十二歳の少年デイヴィッドは、隣の家に引き取られてきた二歳年上の少女メグと知り合う。デイヴィッドが一目でメグに惹かれ、心を奪われていくさまを、ケッチャムは田園の景色とともに実に牧歌的に読者へと物語る。しかし、隣家の女主人ルースは、なぜかメグに辛くあたる。やがて、それは折檻となり、さらにとんでもない虐待へとエスカレートしていく。傍観者でいるしかない主人公の少年を通して、作者は日常に潜むさかしまな人間の性を嫌というほど暴いてみせる。
[本の雑誌1998年10月号]

隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)

隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)