2010-01-01から1年間の記事一覧

殺人犯/ロイ・チョウ監督(2009・香)

フーダニットをめぐって、久々に驚かされたのが、香港から登場したロイ・チョウ監督のデビュー作『殺人犯』だ。電気ドリルで被害者をめった刺しにする連続殺人犯を追う香港警察特捜班の刑事チェン・クアンタイが、犯人の手にかかって高層住宅の中庭に転落し…

ザ・ロード/ジョン・ヒルコート監督(2009・米)

映画の完成が遅れ気味で、伝わってくる情報といえば、ホラー映画サイト経由の殺伐とした画像ばかり。さらに、唯一の監督映画がバイオレンス・ウェスタン(「プロポジション-血の誓約-」)らしいことなど、完成前は不安がつのったけれど、アメリカ本国での評…

オスカー・ワイルドとキャンドルライト殺人事件/ジャイルズ・ブランドレス(国書刊行会)

大英帝国の黄金時代にもあたるヴィクトリア朝のロンドンは、時代ミステリにとって恰好の舞台のようで、この春にガイ・リッチー監督の映画『シャーロック・ホームズ』で見た街のくすんだ佇まいとアクの強い熱気がまだ記憶に生々しく残っている。ジャイルズ・…

ぼくの名はチェット/スペンサー・クイン(東京創元社)

文庫に入ったポール・オースターの『ティンブクトゥ』と続けて読むと、ちょっとしたシンクロニシティーに頬が緩むこと間違いなしのスペンサー・クイン『ぼくの名はチェット』。主人公のチェットは体重四十キロあまりのミックス犬だが、試験につまづいて警察…

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を/ジョニー・トー監督(2009・香)

この人まで出演させてしまったのにはちょっと驚きました、フランスの国民的俳優(&歌手)ジョニー・アリディ。ヨーロッパでも評価の高いジョニー・トーならではの豪腕ぶりといっていいだろう。娘役のシルヴィー・テステューの起用ともども、喝采のキャステ…

説教師/カミラ・レックバリ(集英社文庫)

ラーソンの〈ミレニアム〉をめぐるお祭り騒ぎもさすがに一段落だが、三部作でスウェーデンのミステリに少しでも興味が湧いたなら、迷わずに読んでほしいのがカミラ・レックバリだ。海辺の小さな町を舞台に、伝記作家のエリカと警官のパトリックの主人公カッ…

ウディ・アレンの夢と犯罪/ウディ・アレン監督(2007・英)

スペインを舞台にした『それでも恋するバルセロナ』と日本公開の順序が逆になったが、『ウディ・アレンの夢と犯罪』は、『マッチポイント』に始まるロンドン三部作の掉尾を飾る作品。前作『タロットカード殺人事件』がミステリ映画として秀でていたこともあ…

ノンストップ!/サイモン・カーニック(文春文庫)

まさにそのタイトルが内容のすべてを言い当てているサイモン・カーニックの『ノンストップ!』は、久しく疎遠だった親友から突然かかってきた電話で幕をあける。その不可解な内容に首をかしげる間もなく主人公の平和な日常は暗転し、正体不明の集団に命を狙…

息もできない/ヤン・イクチュン監督(2009/韓)

アジアン・ムービーのショーケースともいうべき東京フィルメックスで、去年の最優秀作品賞に輝いたのが、この『息もできない』だ。俳優のヤン・イクチュンは、思い立ってこの脚本を3か月で書き上げたというが、さらに自らの監督、主演により本作を作り上げ…

シャッター アイランド/マーティン・スコセッシ監督(2010・米)

返金保証こそ付いていなかったが、原作は初紹介の折、結末部分を袋綴じで刊行されたことで話題になったデニス・ルヘイン作の映画化『シャッター アイランド』。ボストンの沖合いに浮かぶ小さな島には、犯罪者たちを収容する精神病院があった。連邦保安官のレ…

裏切りの峡谷/メグ・ガーディナー(集英社文庫)

イギリスのみで出版されていたデビュー作の『チャイナ・レイク』が、七年目の昨年になってやっと母国アメリカでの出版がかない、めでたくエドガー賞(最優秀ペイパーバック部門)まで受賞してしまったメグ・ガーディナーだが、『裏切りの峡谷』はその彼女の…

我らの罪を許したまえ/ロマン・サルドゥ(河出書房新社)

エーコの『薔薇の名前』がわが国に紹介され、歴史ミステリが大きな脚光を浴びたのはすでに二十年前のことだけれど、久し振りにあの名作と肩を並べる作品が登場した。フランスの新星ロマン・サルドゥのデビュー作『我らの罪を許したまえ』である。 十三世紀末…

悪魔パズル/パトリック・クェンティン(論創社)

翻訳紹介されない作品にはそれなりの理由があるものだ、とも言われるけれど、ことパトリック・クェンティンに関しては当て嵌まらない。五年前に『悪女パズル』、三年前には『グリンドルの悪夢』と、実にのんびりしたペースではあるが優れた作品の紹介が進む…

英雄たちの朝(ファージング1)/ジョー・ウォルトン(創元推理文庫)

世界幻想文学大賞受賞作家ジョー・ウォルトンの『英雄たちの朝』だが、この作品は歴史改変ものの三部作〈ファージング〉のパート1にあたる。第二次大戦で敵方のナチとの間に講和条約を結び、名誉ある和平を享受している終戦から九年がたったイギリスが舞台…

さよならまでの三週間/C・J・ボックス(ハヤカワミステリ文庫)

「沈黙の森」に始まるワイオミング州の猟区管理官ジョー・ピケットものも決して悪い出来ではなかったが、シリーズ外の「ブルー・ヘブン」がエドガー賞に輝いたことで箔がついたか、C・J・ボックスという作家に改めて注目が集まっているようだ。そしてその…

シャーロック・ホームズ/ガイ・リッチー監督(2009/米)

おそらくは、ミステリ・ファンの誰もが「イメージが違う」と感じたに違いないロバート・ダウニー・Jrとジュード・ロウが演じるホームズ・ワトスンのコンビ。しかし、そんな下馬評をよそに、映画『シャーロック・ホームズ』はなかなかの出来映えだったと思う…

風船を売る男/シャーロット・アームストロング(創元推理文庫)

シャーロット・アームストロングは、エドガー賞を受賞した『毒薬の小壜』に代表されるように、市井の一員たる登場人物が事件に巻き込まれ、翻弄されるというパターンを得意とするアメリカの女性作家で、六十年代末に没するまでに三十冊近くの作品を世に送っ…

夜の試写会/S・J・ローザン(創元推理文庫)

主役を交替しながら年一作のペースで巻を重ねていたのに、新作がぱったりと途絶えてしまったS・J・ローザンのリディア・チンとビル・スミスのシリーズ。そのわけは、八作目の『冬そして夜』でシリーズが到達点ともいうべき高みに達してしまったせいに違い…

エコー・パーク/マイクル・コナリー(講談社文庫)

警察小説、ハードボイルド、ノワール、サイコスリラー、本格ものと、その持ち味をひと口に語りきれないマイクル・コナリーの作品だが、ハリー・ボッシュのシリーズを中心として枝葉を広げた登場人物のファミリー・ツリーからは、一種の大河ドラマの面白さも…

沼地の記憶/トマス・H・クック(文春文庫)

二年半ぶりに届けられたトマス・H・クックの新作『沼地の記憶』は、若き日の愚かな罪に対するひとりの男の悔恨の物語である。回想と裁判の記録から浮かび上がってくるのは、高校教師として教え子たちに接した主人公の若き日々で、殺人犯の息子とレッテルを…

ラスト・チャイルド/ジョン・ハート(ハヤカワ・ミステリ、ハヤカワ文庫)

デビュー作の「キングの死」、続く「川は静かに流れ」と、親と子の関係を主題に、テーマの咀嚼力と物語の力を見せつけたジョン・ハートの待ちに待った三作目は『ラスト・チャイルド』という作品だ。一年前に何者かに連れ去られ、行方不明となった妹のアリッ…

ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話/ダニエル・ウォレス(武田ランダムハウスジャパン)

『ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話』は、「ビッグ・フィッシュ」でおなじみダニエル・ウォレスの待望久しい新作である。落ちぶれ果てた魔術師ヘンリーが、流浪の果てにたどり着いた寂れたサーカス団。そこで彼は忽然と姿を消してしまう。 …

カストロ謀殺指令/デイヴィッド・L・ロビンズ(新潮文庫)

大学教授でありながら専門が歴史学の暗殺史だったことから、ルーズベルト暗殺という歴史の舞台裏に引きずり込まれてしまった前作から十六年、ラメック教授が再び登場するデイヴィッド・L・ロビンズの『カストロ謀殺指令』である。アメリカに反旗を掲げ、キ…

サベイランス/ジェニファー・リンチ監督(2008・加)

さまざまな風評を呼んだ「ボクシング・ヘレナ」から十五年、ジェニファー・リンチの監督復帰作は『サベイランス』というサイコスリラーだ。サンタ・フェの田舎町で起きた無差別殺人は、カップル、休暇に向う親子、警察官ら五人が犠牲になり、FBIが捜査に乗り…

運命のボタン/リチャード・マシスン(ハヤカワ文庫)

キャメロン・ディアス主演の映画の日本公開にあわせ、その原作を表題作としたリチャード・マシスンの日本オリジナル作品集『運命のボタン』が出た。おりしも、マシスン・トリビュートの書き下ろしアンソロジー「ヒー・イズ・レジェンド」(レビューは次号)…

パーフェクト・ゲッタウェイ/デヴィッド・トゥーヒー監督(2009・米)

「容疑者6人、犯人2人」という煽りのコピーがTVスポットでも流れた『パーフェクト・ゲッタウェイ』は、先月の「フォース・カインド」に続いてミラ・ジョヴォヴィッチが主演している。新婚カップルを殺害し、指名手配となったふたりの殺人犯のニュースが流れ…

死者の名を読み上げよ/イアン・ランキン(ハヤカワ・ミステリ)

章割りに凝ったこういう作品こそ、章題がひと目で見渡せる目次のページがほしいところ。イアン・ランキンの『死者の名を読み上げよ』は、アナログのレコード盤に譬えて、全体をサイド1からサイド4までの四章仕立てとし、作中でフーの「四重人格」を繰り返…

公開間近の映画化された「レポメン」

訳者あとがきなどで、映画化のニュースがいち早く伝わっていたエリック・ガルシアの「レポメン」(新潮文庫刊)ですが、ただいま日本公開待機中。すでに、あちこちの映画館で予告編が上映されているようです。 主演は、すでに喧伝されているようにジュード・…

ロスト・シンボル/ダン・ブラウン(角川書店)

ヴァチカンの爆発事件こと「天使と悪魔」、パリの大追跡こと「ダ・ヴィンチ・コード」に続くハーヴァード大学教授で宗教象徴学の専門家ロバート・ラングドンのシリーズ第三作『ロスト・シンボル』がやっと出た。今回は、大西洋をわたってワシントンDCが舞台…

ベルリン・コンスピラシー/マイケル・バー=ゾウハー

お懐かしやマイケル・バー=ゾウハー。途中ノンフィクションはあったが、小説としては実に十五年ぶりの復活となる『ベルリン・コンスピラシー』である。ロンドンから一夜にしてベルリンに連れ去られた老ユダヤ人の実業家プレイヴァマンは、その翌朝、警察に…