クライム

暴力の教義/ボストン・テラン(新潮文庫)

凄絶なる復讐物語『神は銃弾』を引っさげてのボストン・テランのデビューは衝撃的だった。暴力を描くのではなく、作品が暴力そのものだったからだ。しかし、バイオレンスへの徹底したこだわりに変化の兆しが見てとれたのが、障害を負うヒロインの成長を主題…

The 500/マシュー・クワーク(ハヤカワ・ミステリ)

草の頂き、袋の中の豚、ヴァイオリン・ゲーム。耳慣れないこれらの言葉も、「ほら、映画でもあったでしょ、〈スパニッシュ・プリズナー〉ってのが」というヒントを出せば、ピンとくる読者は多かろう。そう、すべては詐欺の名前。その手口を知りたくば、今月…

野蛮なやつら/ドン・ウィンズロウ(角川書店)

饒舌で機知にとんだ語り口は、『ストリート・キッズ』以来、ドン・ウィンズロウの持ち味といっていいだろう。とはいえ、過去を振り返るとそのスタイルは必ずしも一様ではなく、出だしから軽快で乗りのいい新作『野蛮なやつら』でも、またまた新たな語りのマ…

アイアン・ハウス/ション・ハート(ハヤカワ・ミステリ、ハヤカワミステリ文庫)

アメリカ人の過半数は宇宙を生み出したのはビッグバンではなく、神だと信じているという驚きのデータをネット上で見かけた。二者択一の投票サイトrrratherの一コンテンツで、データの正確性は不明だが、アメリカ国民の中に、プリミティブな価値観を持った人…

解錠師/スティーヴ・ハミルトン(ハヤカワ・ミステり)

MWAの最優秀長編賞とCWAのスチール・ダガー賞というダブルクラウンに輝いた『解錠師』の作者は、私立探偵アレックス・マクナイトのシリーズでおなじみスティーヴ・ハミルトンだが、一部同じミシガンを舞台にしているものの、こちらはノン・シリーズ作…

ねじれた文字、ねじれた路/トム・フランクリン(ハヤカワ・ミステリ)

トム・フランクリンは、デビューからこのかた長編三冊、短編集一冊という寡作で、唯一の短編集『密猟者たち』のみが翻訳されている。長編としては初紹介の『ねじれた文字、ねじれた路』は、すでにLAタイムズブックプライズの最優秀ミステリ賞を受賞、さら…

グッドナイト マイ・ダーリン/インゲル・フリマンソン(集英社文庫)

〈ミレニアム三部作〉で世界の注目を集めるスウェーデンから、またも届けられた夏向きの一冊を。スウェーデン推理アカデミーが選ぶ年間最優秀長編にも選ばれたインゲル・フリマンソンの『グッドナイト マイ・ダーリン』は、〈悪女ジュスティーヌ〉という連作…

生、なお恐るべし/アーバン・ウェイト(新潮文庫)

アメリカ北西部のシアトルから新たな才能が登場した。その名をアーバン・ウェイト。まずは、彼のデビュー作『生、なお恐るべし』の内容をちらりと紹介してみたい。 カナダとの国境に近いワシントン州の森林地帯。前科のある運び屋ハントは、新米の若造ととも…

逃亡のガルヴェストン/ニック・ピゾラット(ハヤカワ・ミステリ)

そもそも時代の空気に敏感なミステリ叢書の老舗として鳴らしてきた〈ハヤカワ・ミステリ〉が、敢えて〈新世代作家紹介〉の看板を掲げた連続刊行の企画は、なかなかの成功を収めつつあるようだ。デイヴィッド・ゴードン(『二流小説家』)、ヨハン・テリオン…

人狩りは終わらない/ロノ・ウェイウェイオール(文春文庫)

焦がれた再会を心から喜びたい作品である。前作の『鎮魂歌は歌わない』が出たのが三年ほど前。その後音沙汰がなく、続編が紹介されることはもうないのだろうと諦めていただけに、喜びもひとしお。ロノ・ウェイウェイオールの第二作『人狩りは終わらない』で…

いたって明解な殺人/グラント・ジャーキンス(新潮文庫)

裁判員制度がスタートして間もなく二年が過ぎようとしているが、この間一般市民の司法に対する関心が一段と高まったことは間違いのないところだろう。『いたって明解な殺人』(新潮文庫)は、アメリカから登場したグラント・ジャーキンスという新人作家のき…

フランキー・マシーンの冬/ドン・ウィンズロウ(角川文庫)

復活の狼煙とも言うべき『犬の力』で読者の前に返り咲いたドン・ウィンズロウだが、その漲る創作意欲は次の『フランキー・マシーンの冬』でも全く衰えていない。サンディエゴでいくつもの商売を器用に営み、余暇はサーフィンを楽しむ初老の男フランク・マシ…

ブラッド・メリディアン/コーマック・マッカーシー(早川書房)

コーマック・マッカーシーは、言わずと知れた現代アメリカを代表する主流文学系作家のひとりで、『血と暴力の国』や『ザ・ロード』が話題となり、近年わが国読者の間でも急速に注目を集めている。前記の二作のほかにも、九十年代に発表された『すべての美し…

プロフェショナル/ロバート・B・パーカー(早川書房)

先日訃報が届けられたロバート・B・パーカーだが、前作『灰色の嵐』で復活を思わせる充実ぶりに感心させられたばかりだった。『プロフェショナル』は、そんなシリーズの最新作であり、37番目の新作だが、もしかしたら最後のスペンサーものとなるかもしれない…

ロンドン・ブールヴァード/ケン・ブルーエン(新潮文庫)

出版社間の作家名表記のブレが、レヘイン=ルヘイン事件(?)をいやでも思い出させるケン・ブルーエン。(著者サイドに確認したという注記があるので、とりあえずは納得だが)『ロンドン・ブールヴァード』は、すでにおなじみの酔いどれ私立ジャック・テイ…

震え/ピーター・レナード(ランダムハウス講談社文庫)

本作の作者名にピンと来たあなた、正解です。『震え』は、犯罪小説の大御所として泣く子も黙るエルモア・レナードの息子、ピーター・レナードの作家デビュー作である。二世作家というと、最近ではスティーヴン・キングの長男ジョー・ヒルの鮮烈なデビューが…

被告の女性に関しては/フランシス・アイルズ(晶文社)

アントニイ・バークリーの未紹介作品を中心に、パーシヴァル・ワイルドやヘレン・マクロイなどの魅力的なラインナップで旗揚げされた<晶文社ミステリ>。もともと海外文学の紹介には定評のある出版社らしいミステリ叢書だった。 その一冊、フランシス・アイ…

ボビーZの気怠く優雅な人生/ドン・ウィンズロウ(角川文庫)

痛快さと切なさという二つのテイストが絶妙のコンビネーションをみせるニール・ケアリーものだが、熱狂的なファンとして気が気じゃないのは、すでに本国ではシリーズにピリオドが打たれているという事実だ。ま、翻訳のぺースからいけば、少なく見積もっても…

弱気な死人/ドナルド・E・ウェストレイク(ヴィレッジブックス)

ドナルド・E・ウェストレイクの『弱気な死人』は、別名義のJ・J・カーマイクルで発表された作品のようだが、この作家のコメディ・センスが炸裂した痛快な作品といっていいだろう。バリーとローラのおしどり夫婦は、ある時金策が尽き、保険金詐欺を企む。妻…

バッド・ニュース/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

ベテラン、ドナルド・E・ウェストレイクの『バッド・ニュース』は、ドートマンダー・シリーズの新作で、あの「ホット・ロック」から数えて十件めとなる泥棒計画の顛末である。といっても、今回ドートマンダーは、なぜ自分はここにいるのか、と首を捻ってば…

最高の悪運/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

現代ミステリのシーンの貴重なアルチザン作家の中でも、最長老格にあたるドナルド・E・ウェストレイクの『最高の悪運』という作品。お馴染みドートマンダー・シリーズの新作である。盗みに入ったつもりが、逆に自分の指輪を盗まれてしまったドートマンダーは…

骨まで盗んで/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

その昔、ピーター・イエーツが映画化した「ホット・ロック」が印象に残っているせいか、わたしの頭の中では、いつも主人公役をロバート・レッドフォードが演じているドナルド・E・ウェストレイクのドートマンダー・シリーズ。この泣く子も黙るクライム・コメ…

天から降ってきた泥棒/ドナルド・E・ウェストレイク(ミステリアス・プレス文庫)

ドートマンダー・シリーズといえば、つい何年か前にレンタルヴィデオ屋でクリストファー・ランバートがドートマンダーを演じる「ホワイ・ミー?」を見つけて思わず小躍りした記憶がある。ドナルド・E・ウェストレイクの『天から降ってきた泥棒』は、シリー…

聖なる怪物/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

『聖なる怪物』は、新刊といっても二十年以上も前の作品の発掘なのだが、これがウェストレイクの餞舌な語りの魔術を駆使したなんともユニークな作品なのである。脚光と醜聞に満ちた人生を歩んだ老俳優のもとを訪れるインタビュアー。問わず語りのような人生…

鉤/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

ミステリの分野で剽窃というテーマ自体は、さほど珍しくない。だから、ドナルド・E・ウェストレイクがこのテーマに挑んだと聞いたときは、逆にちょっとした興味がわいてきた。そんなありふれたテーマを、ミステリの酸いも甘いも知るウェストレイクが、どう…

斧/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

ドナルド・E・ウェストレイクの『斧』は、帯のキャプションにもあるように、「シンプル・プラン」や「ポップ1280」と肩を並べるべき犯罪小説であるが、失業した主人公が再就職のライバルを蹴落とすために殺人を重ねていくというアイデアが、現代的であると同…

忙しい死体/ドナルド・E・ウェストレイク(論創社)

昨年の大晦日に休暇先のメキシコで亡くなったというドナルド・E・ウェストレイクの訃報は、ミステリ・ファンを嘆かせた。ただ、偉大なる才能は失われたが、未紹介のウェストレイク作品はまだまだ山ほど残されているのが、日本の読者にとって、せめてもの救…

泥棒が1ダース/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

『泥棒が1ダース』は、〈現代短篇の名手たち〉と銘打たれたシリーズ企画の一冊で、悪党パーカーや元刑事のミッチ・トビンらと並んで、作者の看板シリーズのひとつである盗みのプロ、ジョン・ドートマンダーが登場する作品だけ(一編のみ、並行世界に住むも…

強盗こそ、われらが宿命/チャック・ホーガン(ヴィレッジブックス)

ペレケーノス祭りの次は、ハメット賞関連でこの作品を。 作者のチャック・ホーガンはアメリカ作家なのに、なぜか『強盗こそ、われらが宿命』からはイギリス映画の香りが漂ってくるから不思議だ。ボストン市の悪名高き犯罪の街チャールズタウンが舞台、主人公…

終わりなき孤独/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ワシントン・サーガに幕をひいたジョージ・P・ペレケーノスは、現在、黒人探偵のデレク・ストレンジ・シリーズに取り組んでいる。二○○二年の新作『終わりなき孤独』は、シリーズ第二作にあたる。 売春婦を支援する組織のメンバーから、デレクのもとに舞い込…