2008-01-01から1年間の記事一覧
ポーの「ウィリアム・ウィルスン」の一節が作中に引用される、ファッション写真家出身のショーン・エリス監督による『ブロークン』。ロンドンの病院に勤務する放射線技師のレナ・ヘディは、父親の誕生日を祝うために兄弟たちと実家を訪れるが、パーティのさ…
シドニー・ルメットは、御齢八十四歳にして、映画監督としてバリバリの現役で活躍中。最新作の『その土曜日、7時58分』は、ある家族の崩壊を描くと いうテーマはあるものの、ミステリ映画としても堂々たる仕上がりである。ニューヨーク郊外の小さな宝石店を…
ロシアの映画界を代表するひとりといわれるニキータ・ミハルコフ監督が、チェチェン独立戦争下に起きた犯罪をテーマにリメイクしたという触れ込みから、『12人の怒れる男』は、もっとゴリゴリした社会派を想像していた。しかし映画館に足を運んでみて、そん…
いろいろなタイプの小説にチャレンジしてきた過去もあるジョゼフ・フィンダーだが、近年手を染めている企業小説系の分野が、わたしは一番水にあっているような気がするが、どうだろう。『最高処刑責任者』も、日本企業から買収され、さらには他社との合併も…
まさに、卵と鶏ならぬ、探偵役と犯人役。そもそもこの本作のアイデアはどっちから出発したのか作者に尋ねてみたくなるジェフリー・ディーヴァーの『スリーピング・ドール』は、かたや人間嘘発見器とでもいうべき訊問の専門家キャサリン・ダンス、かたやマイ…
突然襲ってくるパニック症候群のせいで、会社では女の上司からパワハラ、恋人も親友と浮気し放題、そんなぱっとしない青年ジェームズ・マカヴォイが、ドラッグストアでごっつい美女のアンジェリーナ・ジョリーに声をかけられ、壮大なスケールの陰謀に巻き込…
テキサスの田舎町でくすぶっていた青年マックスが、とびきりの美女サラと出会って恋におちた。しかし、ふたりの間に立ちふさがったのは、それぞれの父親で、一方は保安官、一方は悪漢だった。そう、厄介なことにサラとその父親は、銀行を襲っては町から町へ…
ちょっと前に長編の「ハートシェイプト・ボックス」を大絶賛したばかりのジョー・ヒルだけれど、あの極上のゴースト・ストーリーもまだまだこの作家にとっては、才能の片鱗に過ぎなかった。というわけで、ブラム・ストーカー賞にも輝いた『20世紀の幽霊たち…
『掠奪の群れ』は、『無頼の掟』、『荒ぶる血』と、時代小説やウェスタンのカラーを巧みに織り込んだ犯罪小説が立て続けに紹介され、わが国の読者の胸を熱くさせたジェイムズ・カルロス・ブレイク、二年ぶりの帰還である。著者自らが語っているように、登場…
『メメント』の捩れた脚本でアカデミー賞にもノミネートされたクリストファー・ノーラン監督だけど、その後アル・パチーノが不眠症の刑事を演 じた『インソムニア』は、リメイクということもあったのだろうか、やや焦点が甘かったが、昨年公開されたクリスト…
あざといところのあるミステリだった『シャッター・アイランド』の次は、なるほどこう来ますか。というわけで、どういう事情かは知らぬが、わが国の先行刊行となるらしいデニス・ルヘインの新作『運命の日』は、時代の波に揺り動かされる二十世紀初頭のボス…
メコンの流域、インドシナ半島の東寄りにあるラオス人民民主共和国を舞台にしたユニークな新シリーズの第一作『老検死官シリ先生がゆく』を。主人公は、新生間もないこの共産主義国家でたったひとりの検死官。齢七十二歳、年金生活の夢破れたこの老医師の多…
古い下宿屋の長い廊下の密室状況で、医師たちが運ぶ担架の上から消えうせた患者、また巡回中の警察官を嘲笑うように忽然とゴミ缶の中に現れた死体。例によって、本家ディクスン・カーも真っ青という不可能趣味に溢れた謎を冒頭から読者につきつけてくるのは…
タイトルは、英国における東欧犯罪組織の人身売買契約を指すらしいデヴィッド・クローネンバーグ監督の新作『イースタン・プロミス』。赤ん坊を出産して死んだ身元不明の少女が遺した手帳には、彼女をレイプし、売春をさせていたロシアン・マフィアのボスに…
『Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼』は、実業家にして地元の名士、そんな仮面をかぶったシリアルキラーをケビン・コスナーが演じる。いまさらながらのサイコキラーものだけれど、始まってしばらく観ていると、主演のコスナーが、製作まで手がけるご執心のわけ…
ジェイスン・ステイサム演じる主人公は、服役中に知り合ったペテン師たちから伝授された「究極の勝利の方程式」を土産に意気揚々と出所したギャンブラーだ。しかし、彼を嵌め、刑務所送りにした元の雇い主レイ・リオッタの経営するカジノで大金をせしめ、復…
一昨年に惜しまれて世を去ったR・D・ウィングフィールドが遺したフロスト警部シリーズの長編は、死後出版のものを合わせて六編あるが、この『フロスト気質』はその四作目にあたる。残された未紹介作品はわずか二作というのはちょっと寂しいが、初の上下巻…
先に紹介されたアン・グリーヴスの『大鴉の啼く冬』は、極寒のシェトランド島という舞台の新鮮さとも相俟って好評だったようだが、ローラ・ウィルソンの『千の嘘』は同作と二○○六年のCWA最優秀長編賞を争って、惜しくも破れた作品。しかし、英ミステリの…
ロノ・ウェイウェイオールという新鋭の『鎮魂歌は歌わない』は、娘を殺された主人公ワイリーが、無頼から足を洗って犯人への復讐を誓うという、シリーズの第一作として、あまりに「らしくない」幕開きにちょっと驚く。しかし、やがて友人や妻たちとのやりと…
今年のエドガー賞における映画部門で、「ノーカントリー」などの強敵を抑えて栄冠を勝ちとったのがこの『フィクサー』だ。ジョージ・クルーニー演じる弁 護士のマイケル・クレイトンはニューヨークの大手法律事務所で働いているが、経営者から揉み消し専門の…
個人的に「プレステージ」は、去年公開されたミステリ映画の中では屈指の傑作のひとつだと思っているが、『幻影師アイゼンハイム』は、そのクリストファー・ノーランの作品を連想させる。すなわち、十九世紀の世紀末という時代設定、原作への大胆な脚色、そ…
楽器演奏者の傍らで楽譜の頁をめくる助手を譜めくりという。この仕事は、単に楽譜が読めるだけではだめで、演奏中は演奏者とシンクロするほどの阿吽の呼吸が必要とされる。自らがヴィオラ奏者としても有名なドゥニ・デルクール監督の『譜めくりの女』は、ピ…
男女の私立探偵コンビが、一作ごとに語り手を交替していくという趣向がちょっとユニークなS・J・ローザンのリディア・チンとビル・スミスのシリーズ。前作「天を映す早瀬」は、香港出張で期せずして自分のルーツに接近するリディアのお話だったが、八作目と…
ミステリ作家としての生涯の功績を讃えるダイヤモンドダガー賞というのが英国推理作家協会(CWA)にはあるが、功労賞的なこの賞をもらっても、隠居どころか、もうひと花咲かせる勢いで活躍を続けるベテラン作家がイギリスにはごろごろいる。ピーター・ラヴゼ…
人形、腹話術というテーマから、ウィリアム・ゴールドマンの「マジック」を懐かしくも連想してしまったマレーシア生まれの映画監督ジェームズ・ワンのハリウッド進出作『デッド・サイレンス』。妻が不可解な死を遂げ、「チャイルド・プレイ」のチャッキーを…
ジョー・ライト監督の『つぐない』は、イアン・マキューアンの小説『贖罪』の映画化で、背景には二次大戦を前後してイギリスを揺さぶった激動の時代が鮮やかに描かれている。ジェームズ・マカヴォイとキーラ・ナイトレイの演じるカップルが辿る悲恋のロマン…
なんだか久しぶりの翻訳紹介という気がするジョー・R・ランズデールだが、『ロスト・エコー』は二○○七年の新作である。テキサスの田舎町を舞台に、六歳のときの発熱で不思議な力を身につけた少年が主人公という、いかにも作者らしいお話だ。 主人公のハリー…
ヘイク・タルボットの「魔の淵」は、その昔ジョン・スラデックの「見えないグリーン」とともに遅れてやってきた幻の密室ものとしてわが国に紹介されたが、タルボットには実はもう一冊密室ものがある。本作『絞首人の手伝い』がそれで、「魔の淵」の賭博師探偵ロ…
アカデミー賞受賞のニュースにちょっと驚いたイーサンとジョエルのコーエン兄弟が監督した『ノーカントリー』は、昨年わが国にも翻訳紹介されたコーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」を映画化した作品だ。この兄弟作品では、ノースダコタの田舎町で起…
猫も杓子もリメイクのご時世で、再映画化には食傷気味の昨今だが、さすがにこれは別格だろう。七二年にジョセフ・L・マンキウィッツ監督がアンソニー・ シェーファーの戯曲をもとにメガホンをとった作品を、ケネス・ブラナー監督がリメイクした『スルース』…