氷の天使/キャロル・オコンネル(創元推理文庫)

翻訳者の務台夏子さんが、本日の〈翻訳ミステリー大賞シンジケート〉で『少女はクリスマスには還る』をイチおしとして取り上げているが、それによると新作の翻訳紹介が待機しているらしいキャロル・オコンネル。久々の登場に期待が膨らむオコンネルの旧作として、当ブログでもマロリー・シリーズをいくつか紹介したい。
新刊のミステリが書店に並ばない日はない、といわれるほど新刊ミステリの刊行点数は多いけれども、一方、それらが店頭から消えていくスピードの速さにも相当のものがある。見たときに買え、とは本好きの鉄則で、荷物になるからまた次の機会になんて迷おうものなら、忽ちのうちにその新刊は消え失せ、それを見かけたという記憶すら怪しいものになってしまう。まったく、油断も隙もあったもんじゃない。
キャロル・オコンネルの「マロリーの神託」もそんな一冊であった。天才的な頭脳と氷のようなハートをもつポリス・ウーマンが活躍するこの毛色の変った警察小説は、翻訳ミステリの実績がほとんどない出版社からリリースされたこともあって、あっという間に時代の隙問に埋もれてしまった。さらにその続編も同様の憂き目に会うという不幸が重なり、オコンネルの本邦デビューは散々な結果に終わったかに見えた。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。一昨年、「クリスマスに少女は還る」という作品があちこちのベストテンに選ばれたことから、めでたく今回のカムバックとあいなった。
リニューアルのタイトルは、『氷の天使』、ニューヨーク市警の巡査部長キャシー・マロリー・シリーズの第一作で、育ての親であるマーコヴィッツ刑事が連続殺人鬼の犠牲となり、マロリーはその捜査に奔走することになる。シリーズは本国ではすでに五作を数えているが、まだこの時点では、善悪の識別すら危ういヒロインの特異なキャラクターに頼った異色な警察小説という領域に留まっているものの、そこには不思議な面白さがあり、マロリーの今後に妙な期待を抱かせてくれる。シリーズの復帰を喜びたい。
本の雑誌2001年8月号]

氷の天使 (創元推理文庫)

氷の天使 (創元推理文庫)