ハードボイルド

償いの報酬/ローレンス・ブロック(二見文庫)

ローレンス・ブロックが30年という長きにわたり発表してきたマット・スカダーものも、前作『すべては死にゆく』でついに幕が降ろされたと思っていたファンは多いだろう。しかし、作者は思いもかけなかった形でシリーズの新作を六年ぶりに届けてくれた。 その…

真鍮の評決[上・下]/マイクル・コナリー(講談社文庫)

ごく一部の作品を除けばマイクル・コナリーの作品は主要な登場人物を介して繋がり、一大サーガのようなものを形作っているが、リンカーン弁護士ことミッキー・ハラーもそんなキーパーソンの一人だ。『真鍮の評決』では、そのハラーとハリー・ボッシュとの意…

ミスター・クラリネット/ニック・ストーン(RHブックス・プラス)

『ミスター・クラリネット』は、CWAから〈イアン・フレミング・スチールダガー賞〉を授けられた英国作家ニック・ストーンの幸運なデビュー作だ。 破格の報酬で引受けた人捜しは、二年前に姿を消した幼い少年を連れ戻す仕事だった。元私立探偵のマックス・…

夜を希う/マイクル・コリータ

マイクル・コナリーやトム・フランクリンらに栄誉を授け、ミステリ文学賞の名門となりつつある〈LAタイムズ最優秀ミステリ賞〉だが、マイクル・コリータの『夜を希う』(創元推理文庫)も同賞のお墨付きをもらっている。ウィスコンシンの氾濫湖地帯へとジ…

シャンハイ・ムーン/S・J・ローザン(創元推理文庫)

前作『冬そして夜』でシリーズとしてひとつの頂を極めたS・J・ローザンのリディア・チン&ビル・スミスものだが、その後のシリーズ終焉を匂わせる七年にわたる長い沈黙は、読者を大いにやきもきさせた。その間、作者の胸中に浮かんでは消えたに違いない苦…

ムーンライト・マイル/デニス・ルヘイン(角川文庫)

一九九九年の『雨に祈りを』以来だから、なんと十一年ぶり。そんなパトリック&アンジー・シリーズの新作が、いきなりの最終回だなんて。デニス・ルヘインの『ムーンライト・マイル』は、六作目にして泣いても笑ってもこれが読み収めとなるシリーズの最後の…

フランキー・マシーンの冬/ドン・ウィンズロウ(角川文庫)

復活の狼煙とも言うべき『犬の力』で読者の前に返り咲いたドン・ウィンズロウだが、その漲る創作意欲は次の『フランキー・マシーンの冬』でも全く衰えていない。サンディエゴでいくつもの商売を器用に営み、余暇はサーフィンを楽しむ初老の男フランク・マシ…

夜の試写会/S・J・ローザン(創元推理文庫)

主役を交替しながら年一作のペースで巻を重ねていたのに、新作がぱったりと途絶えてしまったS・J・ローザンのリディア・チンとビル・スミスのシリーズ。そのわけは、八作目の『冬そして夜』でシリーズが到達点ともいうべき高みに達してしまったせいに違い…

スペード&アーチャー探偵事務所/ジョー・ゴアズ(早川書房)

ハメットが「マルタの鷹」を世に送り出してから今年が八十年目にあたるらしく、それを記念しての出版と謳われて登場したのが、ジョー・ゴアズの『スペード&アーチャー探偵事務所』だ。「マルタの鷹」の前日譚というこの作品、なんでもハメット遺族の公認を…

プロフェショナル/ロバート・B・パーカー(早川書房)

先日訃報が届けられたロバート・B・パーカーだが、前作『灰色の嵐』で復活を思わせる充実ぶりに感心させられたばかりだった。『プロフェショナル』は、そんなシリーズの最新作であり、37番目の新作だが、もしかしたら最後のスペンサーものとなるかもしれない…

高く孤独な道を行け/ドン・ウィンズロウ(創元推理文庫)

ご存知、ニール・ケアリーもののパート3『高く孤独な道を行け』である。「仏陀の鏡への道」で中国に足止めをくらっていたケアリーが、義父グレアムの差し伸ベた救いの手で帰国するところから物語は始まる。今回の任務は、父親に誘拐された二歳の男の子を連…

仏陀の鏡への道/ドン・ウィンズロウ(創元推理文庫)

ドン・ウィンズロウの『仏陀の鏡への道』である。元ストリート・キッドの主人公ニールが、ワイズクラックならぬ減らず口をただきながら、上院議員の娘捜しの仕事に不器用な軽快さでロンドンを弄走した前作は、ハードボイルドという既成のパターンに収まらな…

終わりなき孤独/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ワシントン・サーガに幕をひいたジョージ・P・ペレケーノスは、現在、黒人探偵のデレク・ストレンジ・シリーズに取り組んでいる。二○○二年の新作『終わりなき孤独』は、シリーズ第二作にあたる。 売春婦を支援する組織のメンバーから、デレクのもとに舞い込…

野獣よ牙を研げ/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ジョージ・P・ペレケーノスの作品は、出るたびにほっとさせられる。これだけ面白い作家が、わが国でいまひとつブレイクできない理由は謎だが、あまりいい成績をあげているという話はきかないからだ。今回もとりあえずは「曇りなき正義」から一年八カ月ぶり…

愚か者の誇り/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

いつのまにか、翻訳の四冊目になるジョージ・P・ペレケーノスだが、昨年の『俺たちの日』でようやくチラホラ注目が集まるようになってきたようだ。でもって、今回の『愚か者の誇り』で、その人気も決定的なものになるに違いない。いやー、これはいい。饒舌…

生への帰還/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

書評屋冥利と呼べるものがあるとすれぱ、自分が声高に「傑作ーっ」と叫んだ作家や作品が、読者の支持を広く集めることだろう。そして、最後は年末恒例のベストテン選びに堂々の入賞を果たすことができれば言うことはない。しかし、現実はそうそう上手くばか…

曇りなき正義/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

過剰なまでのドラマチックな展開で、どことなく演歌チックなデニス・レヘインと、インプロヴィゼーションを思わせる軽快なフットワークを駆使して、ミディアム・テンポのジャズを彷彿とさせるジョージ・P・ペレケーノス。いまやこのふたりは、現代ハードボイ…

魂よ眠れ/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ワシントンを舞台に「俺たちの日」に始まる〈ワシントン・サーガ〉の四部作でお馴染みのジョージ・P・ペレケーノスの『魂よ眠れ』。この人の大半の作品は、ワシントンという舞台で通底しており、この作品も出版社の分類上は黒人探偵デレク・ストレンジを主…

灰色の嵐/ロバート・B・パーカー(早川書房)

ジェラール・ド・ヴィリエの〈プリンス・マルコ〉が170冊、さらにドン・ペンドルトン他の〈マック・ボラン〉に至っては360冊を越えるというのだから、シリーズものの最長不倒記録には遠く及ばないが、しかしロバート・B・パーカーのスペンサーものの長…

ジャマイカの迷宮/ボブ・モリス(講談社文庫)

フロリダの地を舞台にしたミステリには、なぜか心躍る作品が多いが、ボブ・モリスもその書き手のひとり。デビュー作でもあった前作「震える熱帯」でいきなりエドガー賞の新人賞候補になったが、同じシリーズ・キャラクターが再び登場する第二作の『ジャマイ…

ロング・グッドバイ/レイモンド・チャンドラー(早川書房)

発売日まで部外者は誰もその原稿に近づけないという厳戒態勢が敷かれた(?)と伝えられる村上春樹訳のレイモンド・チャンドラー。噂が噂を読んだフィリップ・マーロウが自分をどう呼ぶかという所謂一人称問題は、それぞれ読者で確認をしていただくとして、…

門外不出 探偵家族の事件ファイル/リサ・ラッツ(SB文庫)

先に明らかにされた2009年のエドガー賞候補になったリサ・ラッツ。彼女のデビュー作がこれ。まるでホームコメディのような展開に、え、え、え?と思った読者も多いことと思うが、それを踏まえた後半の展開が実は最高なんです。 主人公のイザベラは、サンフラ…

鎮魂歌は歌わない/ロノ・ウェイウェイオール(文春文庫)

ロノ・ウェイウェイオールという新鋭の『鎮魂歌は歌わない』は、娘を殺された主人公ワイリーが、無頼から足を洗って犯人への復讐を誓うという、シリーズの第一作として、あまりに「らしくない」幕開きにちょっと驚く。しかし、やがて友人や妻たちとのやりと…

冬そして夜/S・J・ローザン(創元推理文庫)

男女の私立探偵コンビが、一作ごとに語り手を交替していくという趣向がちょっとユニークなS・J・ローザンのリディア・チンとビル・スミスのシリーズ。前作「天を映す早瀬」は、香港出張で期せずして自分のルーツに接近するリディアのお話だったが、八作目と…

変わらぬ哀しみは/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワミステリ文庫)

ここのところの不調続き(悪い作品ではないが、「魂の眠れ」や「ドラマ・シティ」はいまひとつの印象だった)で、作家としての曲がり角にさしかかっているのでは、とちょっと心配だったジョージ・P・ペレケーノスだけれど、『変わらぬ哀しみは』は、デレク…

正当なる狂気/ジェイムズ・クラムリー(早川書房)

ミロドラゴヴィッチとシュグルーという、まるで自身の分身のような主人公を交互に使い分けるジェイムズ・クラムリーだが、○五年の新作『正当なる狂気』は、C・W・シュグルーの出番だ。愛する妻や義理の息子に囲まれ、穏やかな日々を送るシュグルーだったが…