ユーモア

探偵稼業は運しだい/レジナルド・ヒル(PHP文芸文庫)

レジナルド・ヒルは、ちょっと前にダルジールものの『午前零時のフーガ』で、老いて益々盛んなところを日本の読者に見せつけたばかりだが、『探偵稼業は運しだい』はシリーズの最初の二作が紹介されたきり長らくご無沙汰だった私立探偵ジョー・シックススミ…

ピザマンの事件簿2 犯人捜しはつらいよ/L・T・フォークス(ヴィレッジブックス)

続編を待ちかねたL・T・フォークスの〈ピザマン〉シリーズだが、やっと『ピザマンの事件簿2 犯人捜しはつらいよ』が届けられた。酒のうえでの失敗から刑務所暮しを経験した主人公の中年男テリー。めでたく出所し、ピザの配達と大工という二束のわらじで仕…

黒竜江から来た警部/サイモン・ルイス(RHブックスプラス)

ウェールズ出身というサイモン・ルイスだが、本邦初紹介となる『黒竜江から来た警部』は、中国に詳しいというトラベルライターとしての彼のキャリアが下地になっているに違いない。主人公のマー・ジエンは、中国の七台河市公安局に籍をおく警部だが、ある時…

ぼくの名はチェット/スペンサー・クイン(東京創元社)

文庫に入ったポール・オースターの『ティンブクトゥ』と続けて読むと、ちょっとしたシンクロニシティーに頬が緩むこと間違いなしのスペンサー・クイン『ぼくの名はチェット』。主人公のチェットは体重四十キロあまりのミックス犬だが、試験につまづいて警察…

高慢と偏見とゾンビ/ジェイン・オースティン&セス・グレアム=スミス(二見文庫)

この新刊が書店に並ぶや、同時に古典的な名著として名高い本家作品の方も俄に売り上げを伸ばしたとか。十九世紀のイギリス文壇を代表する作家のひとりジェイン・オースティンの代表作を、セス・グレアム=スミスが血みどろのゾンビ小説に仕立て直して話題と…

絵画鑑定家/マルティン・ズーター(ランダムハウス講談社文庫)

非英語圏からの優れたミステリの紹介が続いているが、ドイツのフィツェックやスウェーデンのラーソンらと並んで話題になるであろうマルティン・ズーターは、スイスからの登場だ。英国推理作家協会のダンカン・ローリー・インターナショナル・ダガー(最優秀翻…

プリーストリー氏の問題/A・B・コックス(晶文社)

「毒入りチョコレート事件」や「試行錯誤」というビンテージ級の作品を書いたアントニー・バークリーという作家が、その翻訳紹介数になるとわずかに片手で足りてしまうというかつてのお寒い状況を怪訝な思いで眺めていたファンは多いと思う。しかし、バーク…

ジャンピング・ジェニイ/アントニイ・バークリー(創元推理文庫)

エンタテインメントの面白さの基本は、「読めばわかる!」、という単純かつ明快なものであるべきだとは思うけれども、しかし、現実には読者としてのキャリアが読書に与える影響はばかにできない。例えば、アントニイ・バークリーの『ジャンピング・ジェニイ…

弱気な死人/ドナルド・E・ウェストレイク(ヴィレッジブックス)

ドナルド・E・ウェストレイクの『弱気な死人』は、別名義のJ・J・カーマイクルで発表された作品のようだが、この作家のコメディ・センスが炸裂した痛快な作品といっていいだろう。バリーとローラのおしどり夫婦は、ある時金策が尽き、保険金詐欺を企む。妻…

バッド・ニュース/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

ベテラン、ドナルド・E・ウェストレイクの『バッド・ニュース』は、ドートマンダー・シリーズの新作で、あの「ホット・ロック」から数えて十件めとなる泥棒計画の顛末である。といっても、今回ドートマンダーは、なぜ自分はここにいるのか、と首を捻ってば…

最高の悪運/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

現代ミステリのシーンの貴重なアルチザン作家の中でも、最長老格にあたるドナルド・E・ウェストレイクの『最高の悪運』という作品。お馴染みドートマンダー・シリーズの新作である。盗みに入ったつもりが、逆に自分の指輪を盗まれてしまったドートマンダーは…

骨まで盗んで/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

その昔、ピーター・イエーツが映画化した「ホット・ロック」が印象に残っているせいか、わたしの頭の中では、いつも主人公役をロバート・レッドフォードが演じているドナルド・E・ウェストレイクのドートマンダー・シリーズ。この泣く子も黙るクライム・コメ…

天から降ってきた泥棒/ドナルド・E・ウェストレイク(ミステリアス・プレス文庫)

ドートマンダー・シリーズといえば、つい何年か前にレンタルヴィデオ屋でクリストファー・ランバートがドートマンダーを演じる「ホワイ・ミー?」を見つけて思わず小躍りした記憶がある。ドナルド・E・ウェストレイクの『天から降ってきた泥棒』は、シリー…

聖なる怪物/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

『聖なる怪物』は、新刊といっても二十年以上も前の作品の発掘なのだが、これがウェストレイクの餞舌な語りの魔術を駆使したなんともユニークな作品なのである。脚光と醜聞に満ちた人生を歩んだ老俳優のもとを訪れるインタビュアー。問わず語りのような人生…

忙しい死体/ドナルド・E・ウェストレイク(論創社)

昨年の大晦日に休暇先のメキシコで亡くなったというドナルド・E・ウェストレイクの訃報は、ミステリ・ファンを嘆かせた。ただ、偉大なる才能は失われたが、未紹介のウェストレイク作品はまだまだ山ほど残されているのが、日本の読者にとって、せめてもの救…

泥棒が1ダース/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

『泥棒が1ダース』は、〈現代短篇の名手たち〉と銘打たれたシリーズ企画の一冊で、悪党パーカーや元刑事のミッチ・トビンらと並んで、作者の看板シリーズのひとつである盗みのプロ、ジョン・ドートマンダーが登場する作品だけ(一編のみ、並行世界に住むも…

迷惑なんだけど?/カール・ハイアセン(文春文庫)

ソロデビューの「殺意のシーズン」以来、ひとりわが道を往くという恰好で飄々と作品を発表してきているカール・ハイアセンだが、前作の『復讐はお好き?』でぐんと評価がはねあがったのは、ハイアセンに変化があったのでなく、スクリューボールのような癖の…

死神を葬れ/ジョシュ・バゼル(新潮文庫)

フランクフルトで毎年開催される秋のブックフェア(書籍見本市)は、各国の出版事業者が集い、新作や話題作の出版権をめぐって争奪戦を繰り広げる場として世界最大規模のものだが、二年前そこで話題を独占したのが、この無名の新人作家による『死神を葬れ』…

ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ/L・T・フォークス(ヴィレッジブックス)

帯の「ジョー・R・ランズデール絶賛!?」も賑々しい、オハイオ在住の謎の作家L・T・フォークスの『ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ』である。妻の浮気がきっかけで、酒に酔って暴れた結果が、実刑判決の刑務所暮らし。そんな散々な目にあった主人公のテ…

検死審問ふたたび/パーシヴァル・ワイルド(創元推理文庫)

抱腹絶倒のユーモアと機知にとんだ面白さで喝采を叫ばせてくれたパーシヴァル・ワイルドの「検死審問」から一年。続編にあたる『検死審問ふたたび』が出た。タイトルどおり、前作の後日談で、今度は都会から越してきたパルプ作家が焼死した事件をめぐって、…

アナンシの血脈/ニール・ゲイマン(角川書店)

売れに売れた「ダ・ヴィンチ・コード」に続く柳の下のどじょうを狙ったわけでもないのだろうが、帯に刷られた?ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー第一位獲得!?の惹句が賑々しい。おまけに、御大スティーヴン・キングに?熱烈に太鼓判!?とまで言われた日に…

グッド・オーメンズ/ニール・ゲイマン(角川書店)

先に「アナンシの血脈」が紹介されたニール・ゲイマンが、テリー・プラチェットと組んだ作品で、そのタイトルからも察せられるであろう、映画「オーメン」を下敷きに、ハルマゲドンをめぐるてんやわんやを描いたファンタスティックな物語である。 ヨハネの黙…

門外不出 探偵家族の事件ファイル/リサ・ラッツ(SB文庫)

先に明らかにされた2009年のエドガー賞候補になったリサ・ラッツ。彼女のデビュー作がこれ。まるでホームコメディのような展開に、え、え、え?と思った読者も多いことと思うが、それを踏まえた後半の展開が実は最高なんです。 主人公のイザベラは、サンフラ…

犯罪王カームジン あるいは世界一の大ぼら吹き/ジェラルド・カーシュ(角川書店)

昨今の短編小説ブームの先駆けとなったジェラルド・カーシュは、先年本国でシリーズ全作が発掘され、それが一冊にまとめられた『犯罪王カームジン あるいは世界一の大ぼら吹き』が翻訳された。タイトルからも伺えるように、世紀の大犯罪者を名乗る人物がカー…

最高の銀行強盗のための47ヶ条/トロイ・クック(創元推理文庫)

テキサスの田舎町でくすぶっていた青年マックスが、とびきりの美女サラと出会って恋におちた。しかし、ふたりの間に立ちふさがったのは、それぞれの父親で、一方は保安官、一方は悪漢だった。そう、厄介なことにサラとその父親は、銀行を襲っては町から町へ…

老検死官シリ先生がゆく/コリン・コッタリル(ヴィレッジブックス)

メコンの流域、インドシナ半島の東寄りにあるラオス人民民主共和国を舞台にしたユニークな新シリーズの第一作『老検死官シリ先生がゆく』を。主人公は、新生間もないこの共産主義国家でたったひとりの検死官。齢七十二歳、年金生活の夢破れたこの老医師の多…

フロスト気質/R・D・ウィングフィールド(創元推理文庫)

一昨年に惜しまれて世を去ったR・D・ウィングフィールドが遺したフロスト警部シリーズの長編は、死後出版のものを合わせて六編あるが、この『フロスト気質』はその四作目にあたる。残された未紹介作品はわずか二作というのはちょっと寂しいが、初の上下巻…

道化の町/ジェイムズ・パウエル(河出書房新社)

ジェイムズ・パウエルの『道化の町』は、ジャック・リッチーやロバート・トゥーイなど、一連の短編作家再評価の流れを組む一冊といっていいだろう。知名度では先発組に劣るかもしれないが、個性派という点ではミステリ界を眺め渡しても、パウエルほどの作家…

検死審問‐インクエスト-/パーシヴァル・ワイルド(創元推理文庫)

新訳で登場したパーシヴァル・ワイルドの『検死審問‐インクエスト-』は、遺言書を書き換えたばかりの売れっ子女性作家の屋敷で起きた猟銃による死亡事件をめぐって、田舎町の検死裁判が繰り広げるすったもんだを愉快に描いた逸品。有名な劇作家の余技的な作…