サイコ

羊たちの沈黙(上・下)/トマス・ハリス(新潮文庫)

たった一作がミステリの歴史を変えてしまうことがある。トマス・ハリスの『羊たちの沈黙(上・下)』(新潮文庫)もそんなひとつだ。ジョディ・フォスターが初々しい見習い捜査官を、アンソニー・ホプキンスが毒々しくハンニバル・レクター博士役を演じた映…

ブラッド・ブラザー/ジャック・カーリイ(文春文庫)

サイコロジカル・スリラーの源流をどこに求めるかをめぐっては、さまざまな見解があると思うが、現在のミステリシーンにおけるその分野の流れを決定づけた作品は、間違いなくトマス・ハリスの『羊たちの沈黙』(1988)だろう。今月の一番手となるジャッ…

ピグマリオンの冷笑/ステファニー・ピントフ(ハヤカワ文庫)

エドガー賞の新人賞受賞者のステファニー・ピントフは、早くも第二作の『ピグマリオンの冷笑』が紹介されている。デビュー作の『邪悪』に引き続き、二十世紀初頭のニューヨークを舞台に、刑事のサイモン・ジールとアマチュアの犯罪学者のアリステア・シンク…

催眠[上下]/ラーシュ・ケプレル(ハヤカワ文庫)

いまやマンケルやラーソンばかりじゃないミステリの新王国スウェーデンから、カミラ・レックバリに続き、またも頼もしい新人が登場。なんでも海の向こうじゃマンケルの別名義じゃないかって噂がたったというから(ただし作風は違う)、その実力は推して知る…

エコー・パーク/マイクル・コナリー(講談社文庫)

警察小説、ハードボイルド、ノワール、サイコスリラー、本格ものと、その持ち味をひと口に語りきれないマイクル・コナリーの作品だが、ハリー・ボッシュのシリーズを中心として枝葉を広げた登場人物のファミリー・ツリーからは、一種の大河ドラマの面白さも…

ロード・キル/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

さまざまな職業を転々とした挙げ句に、小説を書いてみたらあたったなんて、作家の略歴の定番みたいなものだし、同じ英語圏でも大西洋を挟んでイギリスとアメリカの両国で刊行された作品の書名が異なるというのも、クラッシク・ミステリの時代からよくあるこ…

隣の家の少女/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

最近掲載された広告を見ると、なんでも10万部を突破だとか。本書が隠れたベストセラーとはちと怖い気がするが、映画の公開を目前にひかえ、それを記念してケッチャム作品のアーカイブを三作紹介します。 良識派が眉をしかめる中、じわじわとその評価を高め…

悪意の森/タナ・フレンチ(集英社文庫)

やや紹介が遅れたが、アイルランドから登場した『悪意の森』のタナ・フレンチは、かなり楽しみな才能だ。ダブリン郊外の深い森に子供たちが姿を消した事件から二十年が過ぎ、ただひとり生還した少年が成人し、殺人課の刑事になっている。そんな彼の封印され…

毒蛇の園/ジャック・カーリイ(文春文庫)

新作が待ち遠しい作家として、いまやサイコスリラーの分野だけでなく、本格ミステリファンの間でも注目を集めるジャック・カーリイ。雨の晩、ラジオの女性キャスターが、指を折られ、腹を裂かれた死体となって見つかる『毒蛇の園』でも、主人公の刑事を衛星…

サイコブレイカー/セバスチャン・フィツェック(柏書房)

ミレニアム三部作のヒットが巻き起こした波及効果のひとつに、ヨーロッパの非英語圏作品への関心の高まりがあると思うが、セバスチャン・フィツェックはスティーヴ・ラーソンよりもひと足早く、ドイツのミステリシーンに日本の読者の目を向けさせた作家だ。…

ビューティ・キラー2犠牲/チェルシー・ケイン(ヴィレッジブックス)

TVシリーズの「デクスター」をお手本にしたようなチェルシー・ケインの『ビューティ・キラー2犠牲』は、女性のシリアルキラーとそれを追う捜査官の因縁を描いた連ドラ風サイコロジカルスリラーの第二部。女性の連続殺人犯という設定にやや違和感がないで…

静かなる天使の叫び/R・J・エロリー(集英社文庫)

三十年以上にわたって、ひとりの男が辿る魂の軌跡を描く年代記。R・J・エロリーの『静かなる天使の叫び(上・下)』(集英社文庫)は、そう呼ぶに相応しい風格と読み応えをそなえている。ジョージア州の田舎町を舞台に、少女ばかりを手にかけるシリアルキラ…

ニーナの記憶/ビル・フロイド(ハヤカワ文庫NV)

表紙の作者名より、帯に刷られた推薦者アイリス・ジョハンセンの名の方が目立つ本のつくりで、てっきりロマンス寄りだろうと思ってしまったビル・フロイドの『ニーナの記憶』。しかし、中身は意外にも連続殺人犯である夫に怯える妻を主人公にした骨の太いサ…

チャイルド44/トム・ロブ・スミス(新潮文庫)

おっと、今頃になってご紹介とは。リドリー・スコット監督による映画化も進行中という『チャイルド44』は、イギリスの新鋭トム・ロブ・スミスの処女作だ。しかし、新人とは思えぬ筆力で、ブッカー賞にまでノミネート(ロングリストのみだが)、スターリン治…

ラジオ・キラー/セバスチャン・フィツェック(柏書房)

英米のミステリに慣れてしまったせいか、異なる文化を背景にした非英語圏の作品には、微妙な違和感をおぼえることが少なくない。昨年「治療島」というデビュー作が話題になったセバスチャン・フィツェックというドイツ作家の第二作『ラジオ・キラー』も、そ…