犯罪小説家/クレイグ・ハーウィッツ(ヴィレッジブックス)

CWA賞レースで、スパイ・冒険・スリラー部門賞にあたるイアン・フレミング・スチール・ダガーを「チャイルド44」と争って惜しくも敗れた『犯罪小説家』だが、そんな世評の応援もあってか、作者のクレッグ・ハーウィッツ自らが第二のデビュー作と語る自信作のようだ。
自宅の寝室で、血まみれの死体となって発見された元婚約者のジュヌヴィエーヴ。こともあろう彼女に折り重なるようになって意識不明で発見された主人公のアンドリューは、駆けつけた警察に逮捕され、殺人犯として法廷に立たされるものの、脳腫瘍の発作で心神喪失の状態にあったとの判定を受け、無罪放免となる。しかし、事件当時の記憶が曖昧とはいえ、どうしても自らの犯行とは思えないアンドリューは、裁判の結果に満足できずに独自の調査を進めるが、その過程で第二の殺人が発生。またも容疑が彼に向けられることに。
数冊の犯罪小説が売れ、映画になった作品もあるが、早くも落ち目になりかかっている作家という主人公の設定を活かしているあたりに、ハーウィッツの手足れの技を感じる。刑事や検死官事務所の鑑識員、担当編集者はおろか、自分の原作映画に主演した俳優まで動員し、現場の捜査官さながらの捜査を展開。瓶詰めの悪性腫瘍を片手に奔走する主人公像にも鬼気迫るものがある。映像化を狙ったようなあざとさがやや鼻につくきらいはあるが、ユーモア、伏線、意外な犯人と、読者の望むものをきちんと揃えた旺盛なサービス精神を買いたい。
[ミステリマガジン2010年5月号]

犯罪小説家 (ヴィレッジブックス)

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