ホラー

三十三本の歯/コリン・コッタリル(ヴィレッジブックス)

CWA賞の最優秀長編部門候補にもなった前作の翻訳紹介から早く四年が経とうとしているが、コリン・コッタリルの『三十三本の歯』はインドシナ半島の東寄りに位置する国ラオスを舞台に、齢七十二を数える老検死官シリ・バイブーンが大活躍するシリーズの待…

リアル・スティール/リチャード・マシスン(ハヤカワ文庫NV)

「アイ・アム・レジェンド」、「運命のボタン」と、依然映画の原作人気も衰えないリチャード・マシスンだが、前々から噂のあった「四角い墓場」もスピルバーグのドリームワークスにより映画化され、日本でも正月映画として公開された。それに合わせて、映画…

墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活/ニール・ゲイマン(角川書店)

本誌読者の中にも、ニール・ゲイマンをSFやファンタジイの人と思って敬遠している向きがあるやもしれない。しかし、もしそうなら大きな損をしていると思う。良質な英ミステリにも通じるユーモアと達者なストーリーテリングから繰り出される長編小説の数々は…

エアーズ家の没落/サラ・ウォーターズ(創元推理文庫)

『夜愁』で文学方面に行ってしまうのかなと思わせたサラ・ウォーターズだが、新作の『エアーズ家の没落』では、堂々とジャンル小説への帰還を果たした。第二次世界大戦直後という設定は前作とほぼ同じだが、舞台をイングランド中部の田園地帯に移して、没落…

高慢と偏見とゾンビ/ジェイン・オースティン&セス・グレアム=スミス(二見文庫)

この新刊が書店に並ぶや、同時に古典的な名著として名高い本家作品の方も俄に売り上げを伸ばしたとか。十九世紀のイギリス文壇を代表する作家のひとりジェイン・オースティンの代表作を、セス・グレアム=スミスが血みどろのゾンビ小説に仕立て直して話題と…

オフシーズン/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

ジャック・ケッチャムの『オフシーズン』である。ケッチャムがいわゆる鬼蓄系の作風を有しながら、その実、堂々たる小説の書き手であることは、熱心なホラー・ファンならすでにご存知だと思う。本作は、そのケッチャムが世に出るきっかけとなった幻のデビュ…

屍車/ジョー・シュライバー(集英社文庫)

初紹介となるジョー・シュライバーの『屍車』も、あんまりな邦題が玉に瑕だが、ホラー系としてはなかなかの収穫。雪の降りしきる夜のニューイングランドを舞台に、幼い娘を人質にとられた母親が、謎の男の命じるまま町から町へと車を走らせる。前半のストレ…

悪霊の島/スティーヴン・キング(文藝春秋)

少し前に息子のジョー・ヒルの本格的なデビューが大きな注目を集めたが、スティーヴン・キング本人の方も一向に衰えは見えない。二○○八年の新作『悪霊の島』は、同年のブラム・ストーカー賞で、短編集部門とあわせての二部門制覇を果たし、マスター・オブ・…

新・幻想と怪奇/仁賀克雄編(ハヤカワ・ミステリ)

都筑道夫の「ポケミス全解説」をひもとくと、彼の編纂で昭和三十一年に刊行された『幻想と怪奇(1)(2)』の思い入れたっぷりな、編者あとがきを兼ねた編集部M名義の解説も収録されていて、故人がこの分野に対して並々ならぬ情熱を抱いていたことが伺われるが…

壊れた偶像/ジョン・ブラックバーン(論創社)

〈論創海外ミステリ〉がぽつりぽつりと紹介しているイギリスのジョン・ブラックバーンは、オカルト・スリラーの書き手としてややB級寄りと思われているフシがあるが、五十年代末の作品『壊れた偶像』(松本真一訳/論創社二○○○円)を読めば、ストーリーテラ…

グッド・オーメンズ/ニール・ゲイマン(角川書店)

先に「アナンシの血脈」が紹介されたニール・ゲイマンが、テリー・プラチェットと組んだ作品で、そのタイトルからも察せられるであろう、映画「オーメン」を下敷きに、ハルマゲドンをめぐるてんやわんやを描いたファンタスティックな物語である。 ヨハネの黙…

20世紀の幽霊たち/ジョー・ヒル(小学館文庫)

ちょっと前に長編の「ハートシェイプト・ボックス」を大絶賛したばかりのジョー・ヒルだけれど、あの極上のゴースト・ストーリーもまだまだこの作家にとっては、才能の片鱗に過ぎなかった。というわけで、ブラム・ストーカー賞にも輝いた『20世紀の幽霊たち…

ロスト・エコー/ジョー・R・ランズデール(ハヤカワミステリ文庫)

なんだか久しぶりの翻訳紹介という気がするジョー・R・ランズデールだが、『ロスト・エコー』は二○○七年の新作である。テキサスの田舎町を舞台に、六歳のときの発熱で不思議な力を身につけた少年が主人公という、いかにも作者らしいお話だ。 主人公のハリー…

古城ホテル/ジェニファー・イーガン(ランダムハウス講談社)

長篇小説は五年に一冊という、寡作な作家ジョニファー・イーガン。デビュー作の「インヴィジブル・サーカス」は、キャメロン・ディアス主演で映画(邦題「姉のいた夏、いない夏」)にもなったので、ご存知の向きもあるだろう。『古城ホテル』は、二○○六年に…

ルインズ 廃墟の奥へ/スコット・スミス(扶桑社海外文庫)

大評判になったデビュー作以来ずいぶんと音沙汰がなくて、一発屋とも、二作目のジンクスとも陰口を叩かれていたスコット・スミスだけれども、やっと新作が届けられた。前作からは十三年ぶりの『ルインズ 廃墟の奥へ』である。 バカンスでメキシコのユカタン…

ハートシェイプト・ボックス/ジョー・ヒル(小学館文庫)

アメリカの新鋭ジョー・ヒルの『ハートシェイプト・ボックス』は、モダンホラー系としては本当に久々の収穫と呼びたい。メンバーが死に、人気を誇っていたバンドも数年前に解散。ぱっとしない日々を送るロック・ミュージシャンのジュードには、奇妙な蒐集癖…