クラシック

ワンダーランドの悪意/ニコラス・ブレイク(論創社)

昨年、ルイス・キャロルが遺した二つのアリスの物語に大胆な脚色を施したティム・バートンの映画「アリス・イン・ワンダーランド」が話題になったが、ニコラス・ブレイクの『ワンダーランドの悪夢』もやはりキャロルの原典を下敷きにした名作として、昔から広…

紳士と月夜の晒し台/ジョージェット・ヘイヤー(創元推理文庫)

ジョージェット・ヘイヤーの名は、わが国でも数冊が訳されているロマンス小説の方面ではともかく、ミステリ・ファンの間では長らく語られることがなかった。しかし、昨年ほぼ時を同じくして紹介されたウォーターズの『エアーズ家の没落』とウォルトンの『英…

悪魔パズル/パトリック・クェンティン(論創社)

翻訳紹介されない作品にはそれなりの理由があるものだ、とも言われるけれど、ことパトリック・クェンティンに関しては当て嵌まらない。五年前に『悪女パズル』、三年前には『グリンドルの悪夢』と、実にのんびりしたペースではあるが優れた作品の紹介が進む…

ミステリの女王の冒険 視聴者への挑戦/飯城勇三編(論創社)

先に同じ叢書から刊行された二冊のラジオドラマ集は、落穂拾いどころか、クイーンの真髄に再びふれる作品揃いに嬉しい驚きを覚えたものだが、その成功を追い風に登場となったのが、このシナリオ・コレクションと思しい。飯城勇三編『ミステリの女王の冒険 視…

ベヴァリー・クラブ/ピーター・アントニイ(原書房)

劇作や映画の脚本で有名な双子、アンソニーとピーターのシェーファー兄弟には、二十代の若かりし頃に合作チームでミステリ小説に挑戦していた時代がある。期間も短く、長編もたった三作しか残ってないが、そのひとつ『衣裳戸棚の女』の妙に人を喰ったところ…

螺鈿の四季/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

戦後間もなく出た「迷路の殺人」を皮切りに、版元や訳者を替わり、形態を変えながら紹介されてきたロバート・ファン・ヒューリックのディー判事ものだが、シリーズに未紹介の虫食いがあるのと、絶版、品切れになるケースが多いので、読者を悩ませてきた。しか…

警官の証言/ルーパート・ペニー(論創社)

いわゆる黄金時代の末期に、コリンズ社のクライムクラブ叢書から「一ペニーでパズルを」の惹句とともに売り出された作家として有名なルーパート・ペニー。近年、別名義が明らかになったと聞くが、レギュラー探偵としてスコットランドヤードの主任警部エドワ…

ウィッチフォード毒殺事件/アントニー・バークリー(晶文社)

1926年に発表された『ウィッチフォード毒殺事件』は、「レイトン・コートの謎」に続くロジャー・シェリンガムが探偵役を務めるシリーズものの第二作で、砒素を使った夫殺しの謎にシェリンガムが挑む。作者のアントニー・バークリーは、実際あった殺人事件に…

地下室の殺人/アントニイ・バークリー(国書刊行会)

〈世界探偵小説全集〉の第12巻は、英本格の最高峰アントニイ・バークリーの巻で、黄金の三〇年代初頭に書かれた「地下室の殺人」である。新居に越してきた新婚夫婦が地下室で事もあろうに死体を発見してしまう。前半は、白骨化した女性の死体の身元を明らか…

レイトン・コートの謎/アントニー・バークリー(国書刊行会)

アントニー・バークリーの諸作品は、古典でありながら、遥かな時を越え現代のミステリ・ファンに今も新鮮な驚きをもたらしてくれる。記念すべきデビュー作である『レイトン・コートの謎』もその例外ではない。この作品は、名探偵でありながらミステリ史上も…

被告の女性に関しては/フランシス・アイルズ(晶文社)

アントニイ・バークリーの未紹介作品を中心に、パーシヴァル・ワイルドやヘレン・マクロイなどの魅力的なラインナップで旗揚げされた<晶文社ミステリ>。もともと海外文学の紹介には定評のある出版社らしいミステリ叢書だった。 その一冊、フランシス・アイ…

プリーストリー氏の問題/A・B・コックス(晶文社)

「毒入りチョコレート事件」や「試行錯誤」というビンテージ級の作品を書いたアントニー・バークリーという作家が、その翻訳紹介数になるとわずかに片手で足りてしまうというかつてのお寒い状況を怪訝な思いで眺めていたファンは多いと思う。しかし、バーク…

災厄の紳士/D・M・ディヴァイン(創元推理文庫)

てっきり本格ミステリは死んだ、と思っていたあの時代に、こんな作品をバリバリ発表していたなんて、D・M・ディヴァインの『災厄の紳士』。まさに本格ミステリの救世主だったんだな、この作家。 主人公のネヴィルはヘボな恋愛詐欺師。大した儲けにならないに…

沙蘭の迷路/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

処女作にはその作家のすべてがあるなんて言うけど、それはこういう作品があるからだろう。ロバート・ファン・ヒューリックの『沙蘭の迷路』、ご存知唐代の中国を舞台にしたディー判事シリーズの第一作にあたる。「迷路の殺人」ほかの旧訳旧題でお馴染みだが…

検死審問ふたたび/パーシヴァル・ワイルド(創元推理文庫)

抱腹絶倒のユーモアと機知にとんだ面白さで喝采を叫ばせてくれたパーシヴァル・ワイルドの「検死審問」から一年。続編にあたる『検死審問ふたたび』が出た。タイトルどおり、前作の後日談で、今度は都会から越してきたパルプ作家が焼死した事件をめぐって、…

死せる案山子の冒険−聴取者への挑戦(2)/エラリー・クイーン(論創社)

先頃刊行されたクイーンの「Xの悲劇」の新訳版は、訳文のリニューアルが古典のかび臭いイメージを払拭し、新しい読者の目を翻訳ミステリへと向けさせる好企画だったと思う。一方、昔ながらのクイーン・ファンが注目するのはこちら。昨年来、話題になってい…

ルルージュ事件/エミール・ガボリオ(国書刊行会)

過去数回に渡り翻訳書が刊行され、ミステリ史の話になればコリンズの「月長石」とともに必ず話が及ぶエミール・ガボリオの『ルルージュ事件』だが、十九世紀のフランスで書かれたこのミステリの古典を実際に読んだ人は、これまでごく少数だったに違いない。…

絞首人の手伝い/ヘイク・タルボット(ハヤカワミステリ)

ヘイク・タルボットの「魔の淵」は、その昔ジョン・スラデックの「見えないグリーン」とともに遅れてやってきた幻の密室ものとしてわが国に紹介されたが、タルボットには実はもう一冊密室ものがある。本作『絞首人の手伝い』がそれで、「魔の淵」の賭博師探偵ロ…

道化の死/ナイオ・マーシュ(国書刊行会)

クラシック・ミステリのリバイバルの流れに、その牽引車として大きな役割を果たした国書刊行会の〈世界探偵小説全集〉が、ついに完結した。ときに老舗の創元推理文庫やハヤカワ・ミステリをもリードする慧眼なセレクトで、思わずため息の出るようなラインナ…

検死審問‐インクエスト-/パーシヴァル・ワイルド(創元推理文庫)

新訳で登場したパーシヴァル・ワイルドの『検死審問‐インクエスト-』は、遺言書を書き換えたばかりの売れっ子女性作家の屋敷で起きた猟銃による死亡事件をめぐって、田舎町の検死裁判が繰り広げるすったもんだを愉快に描いた逸品。有名な劇作家の余技的な作…

グリンドルの悪夢/パトリック・クェンティン(原書房)

作家としての知名度も、作品の紹介数もそれなりにあるパトQことパトリック・クェンティンだが、『グリンドルの悪夢』を読むと、そんな過去の評価も氷山の一角に過ぎなかったか、という思いにとらわれる。このクラスの作品が未紹介で眠っているなら、もっと…