警官の証言/ルーパート・ペニー(論創社)

いわゆる黄金時代の末期に、コリンズ社のクライムクラブ叢書から「一ペニーでパズルを」の惹句とともに売り出された作家として有名なルーパート・ペニー。近年、別名義が明らかになったと聞くが、レギュラー探偵としてスコットランドヤードの主任警部エドワード・ビールが登場するペニー名の作品は全部で八作。これまで、たったひとつ『甘い毒』が国書刊行会の全集で翻訳されていたが、十余年ぶりにやっと二冊目の『警官の証言』が紹介された。
かつて情報局に所属し、暗号の専門家でもあるアデア少佐は、田舎の競売会で一冊の古書を手に入れた。そこに描かれた難解な速記をひもといた少佐は、田舎の一軒家に財宝が隠されていると確信し、その屋敷を買い取り、仲間を呼び集めて、宝探しを始める。しかし、集った顔ぶれにどこか不安なものを感じたメンバーのひとり、編集者のパードンは、スコットランドヤードのビール主任警部に手紙を書いて呼び寄せるが、彼が到着するやいなや、少佐は密室状況の部屋で死体となって発見される。
時代の間に埋もれる作家には、それだけの理由があるというのも道理だが、ペニーはその例外のひとり。冒頭に置かれた時系列を大胆に無視した手紙や、前後半で語り手が変る大胆な構成等にも驚かされるが、リスト形式でくどいくらいに疑問点を検討するなど、ミステリとしての土台が実にしっかりしている。下手すると墓穴を掘りかねない幕間(読者への挑戦)も、きちんと機能しているのも、それゆえだろう。密室トリックへの尋常でない拘りも魅力だが、無数にちりばめられた機知とユーモア、比喩の面白さ、含蓄のある表現など、英ミステリの肥沃な土壌を感じる。もっとこの作家を訳してもらえないだろうか。
[ミステリマガジン2010年3月号]

警官の証言 (論創海外ミステリ)

警官の証言 (論創海外ミステリ)