古書の来歴/ジェラルディン・ブルックス(ランダムハウス講談社)

読書好きにとって古書というテーマは、まさに猫に鰹節だが、ピュリッツァー賞作家であるジェラルディン・ブルックスの『古書の来歴』は、五百年前にスペインで作られたと伝わるユダヤ教の貴重な写本をめぐる物語である。民族紛争の深い爪あとが残るボスニアを訪れた古書鑑定のプロフェショナルである主人公のハンナ。彼女は、百年ぶりに見つかった幻の稀覯本サラエボ・ハガダーの修復作業を通じて、この本の辿ってきた埋もれた過去を次々に明らかにしていく。
付着していた昆虫の羽根やワインのしみ、塩の結晶などを手がかりに、古書の来し方を明らかにしていく過程は、古書探偵といった趣きだが、重きがおかれるのはロジカルな推理よりも、科学捜査の面白さだ。オムニバスに近い形で連ねられたエピソードのひとつひとつが、それぞれの時代背景をしっかりと捉えていて、実に印象的。歴史ミステリというよりはヒストリカルロマンスに近い感触だが、母親への反発から抜け出し、成長していくヒロインの姿が鮮明に描かれているところもいい。

古書の来歴

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