〈映画〉

2013年のミステリ映画ベストテン

クライムものから、トリッキーな仕掛けのあるものまで、2013年もミステリ映画は豊作でした。国籍混交のベストテン(テンといいつつ、到底10作に収まるわけもなく。ちなみに、順位ではなく、観た順番)です。 あえてベストワンを選ぶとすれば、悩みに悩んだあ…

ミステリーズ 運命のリスボン/ラウル・ルイス監督(2012・葡仏)

よくボヤいているように、長い映画は苦手だけど、ミステリ映画だという触れ込みだし、おまけにこの邦題とあっては、観ないわけにはいかない。すなわち、〈ミステリーズ 運命のリスボン〉。南米チリ出身の巨匠ラウル・ルイス作品で、この映画の公開後に監督は…

ゲットバック/サイモン・ウェスト監督(2012・米)

タイトルから連想されるのはビートルズのナンバーだが、強盗仕事にかかる直前に主人公がゲンを担いで聴き入る音楽はCCRの「ボーン・オン・ザ・バイユー」。そんなプロフェッショナルをニコラス・ケイジが演じる〈ゲットバック〉は、1997年の〈コン・…

トールマン/パスカル・ロジェ監督(米加仏・2012)

六年前に鉱山が閉鎖され、寂れてしまった炭鉱町のコールド・ロック。この町では、子どもたちが姿を消す怪事件が相次いでいた。目撃者の証言から、フードを被った長身の男が犯人との情報が流れ、子取り鬼の「トールマン」の仕業だという噂も囁かれていた。あ…

裏切りの戦場 葬られた誓い/マチュー・カソヴィッツ監督(2011・仏)

ナポレオン三世が領有を宣言した十九世紀からフランスの統治下にあったニューカレドニアの小さな島で、自国の独立を求める現地住民のグループが、フランス人憲兵たちを人質に森の洞窟に立て籠もった。知らせを受け、ヴェルサイユから駆けつけた国家憲兵隊治…

コンフィデンスマン ある詐欺師の男/デイヴィッド・ウィーヴァー監督(2011・米)

やたらと多いサミュエル・L・ジャクソンの出演作だが、しかしこの顔を出演者の中に見つけると、妙に期待感のようなものが湧いてくるから不思議なものだ。デイヴィッド・ウィーヴァー監督の『コンフィデンスマン ある詐欺師の男』で彼が演じるのは、友人を殺…

コロンビアーナ/オリヴィエ・メガトン監督(米仏・2011)

そもそもは〈レオン〉の続編として企画されたというリュック・ベッソン・ファミリーの新作〈コロンビアーナ〉は、主人公カトレアの少女時代から始まる。南米コロンビアで麻薬取引の汚れ仕事に手をそめてきた父親が、母親ともどもボスの麻薬王の手にかかって…

そして友よ、静かに死ね/オリヴィエ・マルシャル監督(2011・仏)

フィルム・ノワールの末裔ともいうべき〈あるいは裏切りという名の犬〉を撮ったオリヴィエ・マルシャル監督の新作〈そして友よ、静かに死ね〉は、七十年代の初頭、フランスで民衆からもモモンの愛称で親しまれた実在のギャング、エドモン・ヴィダルの物語で…

盗聴犯〜狙われたブローカー〜/アラン・マック&フェリックス・チョン監督(香・2011)

映画祭ではなぜか先に公開されたが、〈盗聴犯〜狙われたブローカー〜〉(2011)は、二年後に製作された同じ監督・脚本チームによる先の〈死のインサイダー取引〉(2009)の続編である。といっても、盗聴という手段が作中で重要な役割を果たすのと、…

盗聴犯〜死のインサイダー取引〜/アラン・マック&フェリックス・チョン監督(香・2009)

一九九七年に中国に返還された香港が、映画の世界で今なお香港映画の看板を掲げていられるのは、社会主義の中国が特別行政区として香港の資本主義活動を例外的に認めているからで、変わらぬ作品の質の高さで、東洋のハリウッドとしての伝統と命脈を保ってい…

カルロス/オリヴィエ・アサイヤス監督(2010・仏)

そもそもはTVの企画からスタートしたオリヴィエ・アサイヤス監督の『カルロス』は、三部作の合計が五時間半という『旅芸人の記録』も可愛く思える長尺でありながら、体感時間はさほどではない。日本赤軍によるフランス大使館占拠事件(ハーグ・1974年…

籠の中の乙女/ヨルゴス・ランティモス監督(2009・希)

ギリシャ映画といえば、故テオ・アンゲロプロス監督の『旅芸人の記録』(1975)が、真っ先に思い浮かぶ。約四時間にわたり猛烈な睡魔と悪戦苦闘した二十年以上も前の苦い記憶とともに。それ以来、かの国の映画と聞く度に、アンゲロプロスの眠気を誘う(…

依頼人/ソン・ヨンソン監督(2011・韓)

韓流ミステリ映画の面白さには毎度舌を巻くばかりだが、『セブンデイズ』、『哀しき獣』、『カエル少年失踪殺人事件』といった近年の収穫ともいうべき作品に出演していた男優たちが一堂に集う『依頼人』もその例に洩れない。結婚記念日の晩、花束を手に仕事…

崖っぷちの男/アスガー・レス監督(2012・米)

付けも付けたりという『崖っぷちの男』というタイトルだが、マンハッタンにある老舗ホテルの二十一階がその舞台となる。その朝チェックインした謎の男サム・ワーシントンは、食事を終えるや窓の外に立ち、そばに来たら飛び降りるぞと宣言する。野次馬や警官…

ハングリー・ラビット/ロジャー・ドナルドソン監督(2011・米)

相変わらずジェイソン・ステイサムと肩を並べる出演作の多さで、有り難味もインフレ気味のニコラス・ケイジだが、ベテランのロジャー・ドナルドソン監督による『ハングリー・ラビット』では、謎の自警団組織を向こうに回して、孤独な戦いを繰り広げる。妻の…

ブラック・ブレッド/アグスティー・ビジャロンガ監督(2010・西)

アルモドバルの『私が、生きる肌』を押しのけてのアカデミー賞ノミネートが話題になったアグスティー・ビジャロンガ監督の『ブラック・ブレッド』は、フランコ政権による弾圧下にあった一九四○年代のカタローニャ地方を舞台にしている。少年は、ある日森の奥…

別離/アスガー・ファルハディ監督(2012・義)

イランの映画監督アスガー・ファルハディには、先にミステリ的な手法が効果的だった『彼女が消えた浜辺』があったが、アカデミー賞の外国語映画賞に輝いた『別離』は、前作を上回る出来映えといっていい。首都テヘランのアパートで暮らすペイマン・モアディ…

王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件/ツイ・ハーク監督(2010・香)

ディー判事(狄仁傑)といえば、ミステリの読者にはおなじみ、在日オランダ大使だったこともあるロバート・ファン・ヒューリックが七世紀の中国(唐代)を舞台に描いた連作シリーズの主人公だが、この名探偵には実在のモデルがいた。ヒューリックの小説が描…

捜査官X/ピーター・チャン監督(香中・2011)

ピーター・チャン監督の『捜査官X』だが、ドニー・イェン演じる謎めいた男が、クララ・ウェイ、ジミー・ウォングといったクンフー・スターのツワモノたちを向こうに回して堂々と渡り合っていく後半は、武任映画として息を呑む出来映えだ。しかし、ミステリ…

青い塩/イ・ヒョンス(韓・2011)

メガホンをとるのは十一年ぶりというイ・ヒョンスン監督の『青い塩』は、『殺人の追憶』で刑事役だったソン・ガンホが、今度は引退したアウトローを演じる。ヤクザの稼業から足を洗い、ソウルからプサンに移り住んだソン・ガンホの目的は、母親の故郷で食堂…

カエル少年失踪殺人事件/イ・ギュマン監督(韓・2011)

韓国では、二○○七年の法改正で殺人事件の公訴時効がそれまでの十五年から二十五年になったが、その見直しのきっかけとなったふたつの重大未解決事件があったという。そのひとつが、『殺人の追憶』(2004)でボン・ジュノが描いた華城近辺で起きた連続強…

アニマル・キングダム/デヴィッド・ミショッド監督(2010・豪)

『フローズン・リバー』や『ウィンターズ・ボーン』といった名作を輩出し、いまやミステリ映画の名門といった感もあるサンダンス映画祭だが、デヴィッド・ミショッド監督によるメルボルン発の犯罪映画『アニマル・キングダム』も同映画祭でグランプリ(ワー…

シャーロック・ホームズ シャドウゲーム/ガイ・リッチー監督(2011・米英)

ひと頃は映像作家としてほとんど死に体という陰口まで囁かれたガイ・リッチーが見事に息を吹き返した前作。そして、この続編『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』では、ついにかつての勢いを取り戻した感がある。欧州の各地で起きる謎の爆破事件の裏に…

TIME/タイム/アンドリュー・ニコル監督(2011・米)

金持ちは長生き、貧乏人は短命。そんな不条理な(とばかりはいえない?)格差が支配する世界を描く『タイム』は、設定はSF(近未来というよりはパラレルワールドか)だが、随所に切れのいいサスペンスが仕掛けられている。科学技術が進み、老化や寿命とい…

哀しき獣/ナ・ホンジン監督(2011・韓)

ミステリ映画としては甘さが目立った『チェイサー』の世評の高さには怪訝な思いを抱いたものだが、ナ・ホンジンの監督第二作『哀しき獣』はいい。おそらくは前作と役どころを逆転させてのあて書きだろう、請負殺人のブローカーとして型破りの行動力を発揮す…

果てなき路/モンテ・ヘルマン監督(2011・米)

ロジャー・コーマンに見いだされ、ニューシネマのカルト的な名作として今に伝わるロードムービー『断絶』(71)を世に送ったモンテ・ヘルマン。しかし、話題にはなったものの興行的には失敗し、その後、表の世界からフェイドアウトしたかに思われていたが(…

灼熱の魂/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督(2010・加仏)

アカデミー賞の外国語映画賞部門にもノミネート、先頃発表された〈キネマ旬報〉の二○一一年ベストテンでは堂々のランクイン(九位)を果たしたカナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『灼熱の魂』は、内乱の嵐が吹き荒れる中東某国を舞台にした、地獄めぐり…

サラの鍵/ジル・パケ=ブレネール監督(2010・仏)

ジル・パケ=ブレネール監督の『サラの鍵』は、悪夢のような現実に翻弄されながら、それでも逞しく生き抜こうとするヒロインの姿を浮かびあがらせる。一九四二年夏のパリ、ドイツ軍の侵攻で自国の政府によるユダヤ人の一斉検挙が行われたその朝のこと、一家…

フェア・ゲーム/ダグ・リーマン(2010・米唖)

ホワイトハウスを牛耳る大統領の側近たちが、マスコミを通じてひとりのCIAエージェントの身分を世間に晒すというとんでもない愚挙に出た、世にいうプレイム事件。この二十一世紀初頭、実際に起きたスキャンダルに取材したのが、『フェア・ゲーム』である。…

スウィッチ/フレデリック・シェンデルフェール(2011・仏)

以前映画も大ヒットした『クリムゾン・リバー』(創元推理文庫)の作者ジャン=クリストフ・グランジェが共同脚本(製作も)に加わった『スウィッチ』は、いかにもフランス・ミステリらしい出だしから始まる。互いの住居交換を支援するサイトを利用して、モン…