オフシーズン/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

ジャック・ケッチャムの『オフシーズン』である。ケッチャムがいわゆる鬼蓄系の作風を有しながら、その実、堂々たる小説の書き手であることは、熱心なホラー・ファンならすでにご存知だと思う。本作は、そのケッチャムが世に出るきっかけとなった幻のデビュー作である。
季節はずれのメイン州の避暑地にやってきた六人の若い男女に、食人族が襲いかかる。あらすじにしてしまえば、わずか数行だが、その中身はとてもヘビイだ。スプラッタ映画もかくやという胸の悪くなるような描写の嵐が読む者を圧倒し、その中で殺す者と殺される者の戦いが、壮絶に繰り広げられる。
これまで紹介された「隣の家の少女」を始めとする後年の作品と較べるとストレート過ぎるきらいはあるけれど、その分ケッチャムという作家の本質が見えやすいという利点もある。八〇年代初頭に、アメリカ本国でリリースされた時に、出版社が自主規制のために本作をズタズタにした時のエピソードをケッチャム自身が回想する巻末の≪作者あとがき≫も、作品の知られざる成立過程を窺うことができて興味深い。
本の雑誌2001年1月号]

オフシーズン (扶桑社ミステリー)

オフシーズン (扶桑社ミステリー)