2011-05-01から1ヶ月間の記事一覧

夜の真義を/マイケル・コックス(文藝春秋)

ページをめくりながらこれが本当に二十一世紀に書かれた小説かとわが目を疑いたくなるような一冊である。(原著の発表年は二○○六年)本作とさらに続編をのこし、惜しまれて世を去ったマイケル・コックスのデビュー作『夜の真義を』は、十九世紀のイギリスを…

巨人たちの落日(上・中・下)/ケン・フォレット(ソフトバンク文庫)

第二次世界大戦を舞台にした外套と短剣の物語『針の眼』でデビューしたケン・フォレットも、いまやベテラン作家の仲間入りを果たし、近年では歴史ものの分野にその執筆活動の軸足を移している。本作に先立つ『大聖堂』とその続編では、中世のイングランドを…

アンチクライスト/ラース・フォン・トリアー監督(2009・独仏丁、他)

痛いというと、痛々しいの意味で使われていることが多い昨今だが、『アンチクライスト』はまさに肉体的な苦痛に満ちた?痛い?映画だ。雪の晩に起きた悲劇で物語の幕はあがる。ウィレム・デフォーとシャルロット・ゲンズブールの夫婦は、ある晩情欲にかられて…

MAD探偵 七人の容疑者/ジョニー・トー&ワー・カーファイ監督(2007・香)

一昨年の東京国際映画祭で上映され、ひと握り好事家の間では評判だったジョニー・トーがワイ・カーファイと組んで合同監督した『MAD探偵 7人の容疑者』が、やっと一般公開された。過激ともいえるプロファイリング捜査で周囲を唖然とさせながらも、難事件…

ブローン・アパート/シャロン・マグアイア監督(2008・英)

『ブローン・アパート』は、ロンドンのイーストエンドで夫やひとり息子と暮らす三人家族の妻役を、『シャッター アイランド』にも出ていたミシェル・ウィリアムズが演じる。彼女の夫は、警察で爆発物の処理の仕事をしているが、相次ぐ事件の緊張感からか心を…

裏切りの代償 掃除屋クィン2/ブレット・バトルズ(RHブックス・プラス)

世界中のミステリ・ファンが集う〈バウチャーコン〉で、ベスト・スリラー賞に輝いたブレット・バトルズの『裏切りの代償』は、フリーランスの?清掃屋?ことジョナサン・ウィンが活躍する〈掃除屋クィン〉シリーズの第二作である。 今回舞い込んだ仕事は、ロス…

RED(レッド)/ロベルト・シュランケ監督(2010・米)

「アイアンマン」とその続編、「ウォッチメン」、「キック・アス」等々、グラフィック・ノベルの映画化はまさに百花繚乱の賑やかさで、アメコミ門外漢の目から見ても、その相性の良さには、どこか格別のものがあるように思える。グラフィック・ノベルって何…

冷血の彼方/マイケル・ジェネリン(創元推理文庫)

出会いに期待と緊張感はつきものだが、新たに届けられたシリーズものの最初の一冊をひもとくスリルは、やはりひとしおのものがある。今月は、そんな気分を存分に味わわせてくれた一冊から。欧州中部の共和国スロヴァキアを舞台にした警察小説シリーズの幕が…

いたって明解な殺人/グラント・ジャーキンス(新潮文庫)

裁判員制度がスタートして間もなく二年が過ぎようとしているが、この間一般市民の司法に対する関心が一段と高まったことは間違いのないところだろう。『いたって明解な殺人』(新潮文庫)は、アメリカから登場したグラント・ジャーキンスという新人作家のき…

黒き水のうねり/アッティカ・ロック(ハヤカワ文庫)

「ブラックパワー」という言葉も、ずいぶんと古めかしい響きになってしまったが、昨年のエドガー賞で新人賞の候補にもあがった女性作家アッティカ・ロックの『黒き水のうねり』では、この言葉が人種差別の撤廃を求め、結集を呼びかける急進派黒人たちのスロ…