螺旋/サンティアーゴ・バハーレス(ヴィレッジブックス)

スペインという国籍とエンタテインメントとして型に嵌まらない面白さから、ふと数年前に紹介されたカルロス・ルイス・サフォンの「風の影」を思い起こしたりもする『螺旋』は、サンティアーゴ・パハーレスという新鋭の作家が、二十五歳の若さで書き上げた処女長篇小説である。
出版社に勤める編集者のダビッドは、作家の面倒見がいいところを社長に見込まれて、ある作家を探し出す役目を命ぜられる。トマス・マウドは、二十一世紀の「指輪物語」と称せられる大河小説「螺旋」の作者で、十二年前の刊行以来、社のドル箱作家だったが、社長すらもその正体を知らなかった。しかし、出版期限が半年後に迫った次回作が待てども届かず、宣伝費用などに大損害のおそれが生じたことから、社長はこれまでの禁を破り、謎の作者を探す決心をしたのだった。わずかな手がかりから判明した、作者が住むと思われるピレネーの山深い小さな村へ主人公は向かうが。
ありがちなテーマではあるが、作者捜しの物語はやはり魅力的で、分析化学の専門家やタイプライターに詳しい古物商、筆跡鑑定によるプロファイラーまでを動員し、手がかりを絞り込む事前の下調べや、現地に乗り込んでからの調査の試行錯誤が楽しい。失敗続きで捗々しい進展を見せない調査と同行した妻との間の不協和音に主人公は苛まれていくが、やがてどんよりした展開から俄に真相の晴れ間が顔を覗かせる。意外な真相をめぐる終盤の目くるめく展開が素晴らしいが、前半で枝分かれしたもうひとつの物語が、ループするように戻ってきて再び出会う瞬間も感動を誘う。
[ミステリマガジン2010年5月号]

螺旋

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