ミステリの女王の冒険 視聴者への挑戦/飯城勇三編(論創社)

先に同じ叢書から刊行された二冊のラジオドラマ集は、落穂拾いどころか、クイーンの真髄に再びふれる作品揃いに嬉しい驚きを覚えたものだが、その成功を追い風に登場となったのが、このシナリオ・コレクションと思しい。飯城勇三編『ミステリの女王の冒険 視聴者への挑戦』は、一九七五年から翌年にかけてアメリカのNBCで製作され、その後日本でも「エラリー・クイーン・ミステリー」というタイトルでオンエアされたテレビ番組(ジム・ハットンが主役のクイーンを演じた)の脚本から、五篇を収録している。
表題作は、ニューヨークの港に停泊中のクイーン・メリー号の船上を舞台に、終盤はクイーンとそのライバルたちの間で華麗な多重推理の饗宴が繰り広げられる。収録作に関していえば、クイーン自身の関与は「奇妙なお茶会の冒険」への原作(「キ印ぞろいのお茶会の冒険」)提供以外は薄いようだが、ミステリ劇として優れているだけでなく、クイーンらしさを演出した侮れない作品が多く、エレベーターを使った不可能犯罪を扱う「十二階特急の冒険」、人を喰ったユーモアが光る「黄金のこま犬の冒険」、シャープな論理の切れとドラマティックな展開の「慎重な証人の冒険」など、贋作集と捉えても見事な作品が揃っている。
加えて、巻末に付された町田暁雄氏の手になる念入りな全エピソード・ガイドは労作にして永久保存版。第二集の編纂が待たれるところだが、近年CSでその一部が放映されたという本編のDVDソフト化も切に望みたいところだ。
[ミステリマガジン2010年5月号]

ミステリの女王の冒険―視聴者への挑戦 (論創海外ミステリ)

ミステリの女王の冒険―視聴者への挑戦 (論創海外ミステリ)