作品集
メイン・ディッシュ級の大長編もいいけど、たまには食後のデザートに味なショート・ストーリー集はいかが? ジェフリー・ディーヴァーやローラ・リップマンといった名だたる面々が腕をふるうエド・ゴーマンとマーティン・H・グリーンバーグ共編の『18の罪』…
ドイツ語圏を代表するスイスの作家、フリードリヒ・デュレンマットを最初に読んだのは、『嫌疑』でもなければ『約束』でもない。大学時代の第二外国語のテキストだった。辞書を引き引き読んだ戯曲『物理学者たち』の無類の面白さに感動し、この作家をもっと…
右手に奇想、左手には英国流のドライなユーモア。アントニー・マンの『フランクを始末するには』は、読者を面喰わせること必至の作品集である。まずは冒頭に置かれた、相棒が赤ん坊という警官コンビが活躍する「マイロとおれ」に唖然としていただきたい。さ…
喩えるならば、人の集まるところは苦手なくせに、何かの弾みで出席の返事をしてしまい、気が重いまま顔を出したパーティのようなものだろうか。岸本佐知子編訳の『居心地の悪い部屋』は、そんなアンソロジーである。しかし、気がついてみると、居心地の悪い…
「アイ・アム・レジェンド」、「運命のボタン」と、依然映画の原作人気も衰えないリチャード・マシスンだが、前々から噂のあった「四角い墓場」もスピルバーグのドリームワークスにより映画化され、日本でも正月映画として公開された。それに合わせて、映画…
ジャック・ヴァンスといえば、SFの世界では数多のリスペクトを集めるカリスマ作家だが、実はミステリとの縁も浅からぬものがあって、『檻の中の人間』でエドガー賞の処女長編賞を獲っているし(本名のジョン・ホルブルック・ヴァンス名義)、エラリー・ク…
力のこもった長編の数々に較べると、その箸休めというか、余技的と思えるものがこれまでは多かったが、今回の『15のわけあり小説』では、そんな器用さよりも短編作家としての本領を見せつける作品が多いことに嬉しい驚きをおぼえる。 例えば、収録作のひとつ…
主役を交替しながら年一作のペースで巻を重ねていたのに、新作がぱったりと途絶えてしまったS・J・ローザンのリディア・チンとビル・スミスのシリーズ。そのわけは、八作目の『冬そして夜』でシリーズが到達点ともいうべき高みに達してしまったせいに違い…
キャメロン・ディアス主演の映画の日本公開にあわせ、その原作を表題作としたリチャード・マシスンの日本オリジナル作品集『運命のボタン』が出た。おりしも、マシスン・トリビュートの書き下ろしアンソロジー「ヒー・イズ・レジェンド」(レビューは次号)…
先に同じ叢書から刊行された二冊のラジオドラマ集は、落穂拾いどころか、クイーンの真髄に再びふれる作品揃いに嬉しい驚きを覚えたものだが、その成功を追い風に登場となったのが、このシナリオ・コレクションと思しい。飯城勇三編『ミステリの女王の冒険 視…
怪盗ニック・ベルベットや医師のサム・ホーソーンなど、日本独自に彼らの事件簿がまとめられるほどエドワード・D・ホックのシリーズものは人気を誇ってきたが、短篇のマエストロとしての仕事は、それらの作品集に限ったわけではない。以前刊行されたノンシリ…
全盛期は年に一度届けられる読者への贈り物だったフランシスの長篇だが、晩年はそれに替わって短篇集が届けられた年もあった。 新刊を手にとって、いつになく薄っぺらなのに驚き、あれれ大丈夫かな、と思ったディック・フランシスの前作「騎乗」から、ほぼ一…
体系的な紹介を期待するのではなく、何が出てくるか判らないびっくり箱的な興味で新刊を見守っている光文社の古典新訳文庫だが、そうか、これを出したか、と唸らされたのがアルフレッド・エドガー・コッパードの『天来の美酒/消えちゃった』だ。コッパード…
めでたく二月にヘンリー・セリックが3Dのクレイ・アニメーションとして手がけた映画「コララインとボタンの魔女」の日本公開も決まったニール・ゲイマンの短篇集『壊れやすいもの』。ゲイマンはSFやファンタジー方面の人、という先入観を持つ向きも多い…
イギリスの文壇では、ショートストーリーという形式は絶滅危惧種と言われており、危機を唱える作家たちによるキャンペーンも行われているという。『殺しの儀式』で英国推理作家協会(CWA)からゴールドガダー賞を授けられているヴァル・マクダーミドも、その…
ポケミスのお陰で、再びロバート・ファン・ヒューリックの評価が、静かに、しかし確実に高まってきているのが嬉しい。『五色の雲』は、ディー判事ものを八篇収めている。 表題作は、ディー判事が公職につき、初めて赴任した先である東海のほとり、平来(ぽん…
<晶文社ミステリ>の一冊として刊行されたヘレン・マクロイの『歌うダイアモンド』。のっけから、別れた元夫のブレット・ハリデイの序文が泣かせる、おそらくはマクロイ唯一の短編集*1だが、長いものばかりでなく、短いものもお手のものというマクロイのも…
『泥棒が1ダース』は、〈現代短篇の名手たち〉と銘打たれたシリーズ企画の一冊で、悪党パーカーや元刑事のミッチ・トビンらと並んで、作者の看板シリーズのひとつである盗みのプロ、ジョン・ドートマンダーが登場する作品だけ(一編のみ、並行世界に住むも…
私立探偵パトリックとアンジーのシリーズや、映画にもなった『ミスティック・リバー』、最新作の『運命の日』と、長篇小説の作家として語られることの多いデニス・ルヘインだが、『コーパスへの道』では、これまで知られなかった短篇作家というもうひとつの…
都筑道夫の「ポケミス全解説」をひもとくと、彼の編纂で昭和三十一年に刊行された『幻想と怪奇(1)(2)』の思い入れたっぷりな、編者あとがきを兼ねた編集部M名義の解説も収録されていて、故人がこの分野に対して並々ならぬ情熱を抱いていたことが伺われるが…
ペキンパーが監督した「ゲッタウェイ」やウェストレイクが脚本を書いた「グリフターズ」ほど有名じゃないが、ジム・トンプスン原作の映画に「ファイヤーワークス」がある。(一九九六年・アメリカ映画。監督はマイケル・オブロウィッツ)その元となった中篇…
先頃刊行されたクイーンの「Xの悲劇」の新訳版は、訳文のリニューアルが古典のかび臭いイメージを払拭し、新しい読者の目を翻訳ミステリへと向けさせる好企画だったと思う。一方、昔ながらのクイーン・ファンが注目するのはこちら。昨年来、話題になってい…
「炎のなかの絵」で、元祖〈異色作家短篇集〉でも、その要の存在だったジョン・コリア。生涯にわたり、六十余編のショートストーリーをものし、エドガー賞も受賞したことがあるこの作家の作品は、ミステリファンなら幻想と怪奇、奇妙な味系のアンソロジーな…
昨今の短編小説ブームの先駆けとなったジェラルド・カーシュは、先年本国でシリーズ全作が発掘され、それが一冊にまとめられた『犯罪王カームジン あるいは世界一の大ぼら吹き』が翻訳された。タイトルからも伺えるように、世紀の大犯罪者を名乗る人物がカー…
ちょっと前に長編の「ハートシェイプト・ボックス」を大絶賛したばかりのジョー・ヒルだけれど、あの極上のゴースト・ストーリーもまだまだこの作家にとっては、才能の片鱗に過ぎなかった。というわけで、ブラム・ストーカー賞にも輝いた『20世紀の幽霊たち…
ジェイムズ・パウエルの『道化の町』は、ジャック・リッチーやロバート・トゥーイなど、一連の短編作家再評価の流れを組む一冊といっていいだろう。知名度では先発組に劣るかもしれないが、個性派という点ではミステリ界を眺め渡しても、パウエルほどの作家…
この短編集の作者スコット・ウォルヴンの名をご存知の読者は少ないかもしれないが、オットー・ペンズラーの有名なアンソロジー〈ベスト・アメリカン・ミステリ〉のシリーズでは、常連としてお馴染みの人である。『北東の大地、逃亡の西』は、アメリカのロー…