2009-01-01から1年間の記事一覧

震え/ピーター・レナード(ランダムハウス講談社文庫)

本作の作者名にピンと来たあなた、正解です。『震え』は、犯罪小説の大御所として泣く子も黙るエルモア・レナードの息子、ピーター・レナードの作家デビュー作である。二世作家というと、最近ではスティーヴン・キングの長男ジョー・ヒルの鮮烈なデビューが…

ソウル・コレクター/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)

絵画の窃盗と殺人の罪で拘置所に収容された容疑者のアーサー・ライム。彼は、ニューヨーク市警科学捜査コンサルタント、リンカーン・ライムの従兄弟だった。おりしもロンドン警視庁との共同作戦のさ中で忙しいライムだったが、アーサーの妻の懇願もあって、…

石が流す血/フランセス・ファイフィールド(ランダムハウス講談社文庫)

英国ミステリの伝統を継ぐ女性作家としては、P・D・ジェイムズやルース・レンデルの次の世代にあたるフランセス・ファイフィールドも、すでに六十歳を越え、ベテランの域にある。人間観察の濃やかな作風が読者を選ぶせいだろうか、ポケミスで出た『汚れなき…

ウィッチフォード毒殺事件/アントニー・バークリー(晶文社)

1926年に発表された『ウィッチフォード毒殺事件』は、「レイトン・コートの謎」に続くロジャー・シェリンガムが探偵役を務めるシリーズものの第二作で、砒素を使った夫殺しの謎にシェリンガムが挑む。作者のアントニー・バークリーは、実際あった殺人事件に…

地下室の殺人/アントニイ・バークリー(国書刊行会)

〈世界探偵小説全集〉の第12巻は、英本格の最高峰アントニイ・バークリーの巻で、黄金の三〇年代初頭に書かれた「地下室の殺人」である。新居に越してきた新婚夫婦が地下室で事もあろうに死体を発見してしまう。前半は、白骨化した女性の死体の身元を明らか…

レイトン・コートの謎/アントニー・バークリー(国書刊行会)

アントニー・バークリーの諸作品は、古典でありながら、遥かな時を越え現代のミステリ・ファンに今も新鮮な驚きをもたらしてくれる。記念すべきデビュー作である『レイトン・コートの謎』もその例外ではない。この作品は、名探偵でありながらミステリ史上も…

被告の女性に関しては/フランシス・アイルズ(晶文社)

アントニイ・バークリーの未紹介作品を中心に、パーシヴァル・ワイルドやヘレン・マクロイなどの魅力的なラインナップで旗揚げされた<晶文社ミステリ>。もともと海外文学の紹介には定評のある出版社らしいミステリ叢書だった。 その一冊、フランシス・アイ…

プリーストリー氏の問題/A・B・コックス(晶文社)

「毒入りチョコレート事件」や「試行錯誤」というビンテージ級の作品を書いたアントニー・バークリーという作家が、その翻訳紹介数になるとわずかに片手で足りてしまうというかつてのお寒い状況を怪訝な思いで眺めていたファンは多いと思う。しかし、バーク…

狼の死刑宣告ジェームズ・ワン監督(2007・米)

作家のブライアン・ガーフィールドと映画の縁は浅からぬものがあって、エドガー賞に輝いた「ホップスコッチ」の映画化をはじめとして、チャールズ・ブロンソン主演で映画化された「狼よさらば」(スタローンによるリメイクの噂あり)、さらにはウェストレイクと…

バッド・モンキーズ/マット・ラフ(文藝春秋)

マット・ラフは、もともとSF読者の間ではスリップストリーム系の風変わりな作家として注目されてきた人のようだが、『バッド・モンキーズ』は、ミステリ・ファンにも十分対応可能な痛快なアクション小説である。矯正不能の悪者たち(すなわちバッド・モン…

レポメン/エリック・ガルシア(新潮文庫)

恐竜探偵シリーズの生みの親エリック・ガルシアの『レポメン』は、人工臓器が発達し、高価の臓器を買うためにはローンが一般化している近未来が舞台。主人公は、ローン滞納者からメスを使って手荒に臓器を回収する腕利きの取立屋(レポメン)だったが、ある…

ダン・ブラウン新作の日本上陸は来年3月

『天使と悪魔』、『ダ・ヴィンチ・コード』に続くダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ第3作『ロスト・シンボル』の日本発売日が来年3月3日と予告されました。翻訳は過去2作と同じく越前敏弥。角川グループパブリッシングより、上下巻各1890円の予定。…

ボビーZの気怠く優雅な人生/ドン・ウィンズロウ(角川文庫)

痛快さと切なさという二つのテイストが絶妙のコンビネーションをみせるニール・ケアリーものだが、熱狂的なファンとして気が気じゃないのは、すでに本国ではシリーズにピリオドが打たれているという事実だ。ま、翻訳のぺースからいけば、少なく見積もっても…

高く孤独な道を行け/ドン・ウィンズロウ(創元推理文庫)

ご存知、ニール・ケアリーもののパート3『高く孤独な道を行け』である。「仏陀の鏡への道」で中国に足止めをくらっていたケアリーが、義父グレアムの差し伸ベた救いの手で帰国するところから物語は始まる。今回の任務は、父親に誘拐された二歳の男の子を連…

仏陀の鏡への道/ドン・ウィンズロウ(創元推理文庫)

ドン・ウィンズロウの『仏陀の鏡への道』である。元ストリート・キッドの主人公ニールが、ワイズクラックならぬ減らず口をただきながら、上院議員の娘捜しの仕事に不器用な軽快さでロンドンを弄走した前作は、ハードボイルドという既成のパターンに収まらな…

劇団フーダニットの10周年記念フェスティバル

ミステリ劇を専門に上演する劇団フーダニットが、創立10周年を記念してフェスティバルを開催します。12月19日と20日の両日、劇団の地元である江戸川区清新町のコミュニティ会館にて。(東西線西葛西駅下車徒歩10分)現時点で決まっている出し物は、次のとお…

コラライン、いよいよ日本公開

すでに海の向こうでは今年の2月に公開済みのニール・ゲイマン原作、ヘンリー・セリック監督「コララインとボタンの魔女」の日本公開が正式に決まりました。ヤッホー。公開は2010年2月の予定。 今回は、ウェブ版の予告編をご紹介しておきます。(劇場用とま…

クリスティの未発表短篇はポアロもの

1976年に85歳で世を去ったアガサ・クリスティが生前に使っていたノートブックが見つかり(73歳の頃らしい)、イラストやメモとともに未発表の短篇2篇が含まれていたことが伝えられていたが、この秋めでたくHarperCollins社から「Agatha Christie’s Secret No…

悪霊の島/スティーヴン・キング(文藝春秋)

少し前に息子のジョー・ヒルの本格的なデビューが大きな注目を集めたが、スティーヴン・キング本人の方も一向に衰えは見えない。二○○八年の新作『悪霊の島』は、同年のブラム・ストーカー賞で、短編集部門とあわせての二部門制覇を果たし、マスター・オブ・…

災厄の紳士/D・M・ディヴァイン(創元推理文庫)

てっきり本格ミステリは死んだ、と思っていたあの時代に、こんな作品をバリバリ発表していたなんて、D・M・ディヴァインの『災厄の紳士』。まさに本格ミステリの救世主だったんだな、この作家。 主人公のネヴィルはヘボな恋愛詐欺師。大した儲けにならないに…

水時計/ジム・ケリー(創元推理文庫)

まさかドロシイ・セイヤーズの全長篇が日本語で読める日が来るなんて夢にも思っていなかった今から三十年前。古書店巡りに持ち歩く探求書リストのトップにあったのは、平井呈一訳の「ナイン・テイラーズ」だった。ずいぶんと必死に探したものだけど、結局二…

死の舞踏/ヘレン・マクロイ(論創社)

「暗い鏡の中で」で知られるヘレン・マクロイも、昔に較べれば随分と翻訳紹介が進んだ感があるけれど、しかしまだまだ気になる欠落は多い。今回、紹介の運びとなった『死の舞踏』もそのひとつで、本作はマクロイのデビュー作であるとともに、レギュラー探偵…

割れたひづめ/ヘレン・マクロイ(国書刊行会)

ヘレン・マクロイの『割れたひづめ』が出た。おなじみの精神分析学者のベイジル・ウィリングが登場する作品で、冒頭からなかなか強烈な謎を読者に叩きつけてくれる。その部屋で一夜を過ごしたものは、必ず悪魔に命を奪われる。そんな言い伝えのある屋敷に、…

歌うダイアモンド/ヘレン・マクロイ(晶文社)

<晶文社ミステリ>の一冊として刊行されたヘレン・マクロイの『歌うダイアモンド』。のっけから、別れた元夫のブレット・ハリデイの序文が泣かせる、おそらくはマクロイ唯一の短編集*1だが、長いものばかりでなく、短いものもお手のものというマクロイのも…

ヘレン・マクロイ作品リスト

新訳の「殺す者と殺される者」に解説を書く際、作成したリストです。(解説にこのリストは収録されません)それにしても、「暗い鏡の中に」が手に入らない状況は実に残念。 (追記)その後編集者と相談のうえ、作品リストを文庫解説の末に載せることになりました。…

幽霊の2/3/ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

テレビの某番組*1人気の後押しもあってか、まさかのリバイバルを果たしたヘレン・マクロイの『幽霊の2/3』。衆人環視のもとで変死を遂げた作家の死をめぐる作品で、レギュラー探偵の精神科医ベイジル・ウィリングも登場するし、ある有名なトリックが使わ…

3時10分、決断のとき/ジェームズ・マンゴールド監督(2007・米)

重度の西部劇音痴なのに、『3時10分、決断のとき』の公開に小躍りしたのは、原作がエルモア・レナードの短篇だからだ。(〈ミステリマガジン〉1988年7月号に訳載)舞台は開拓時代のアリゾナ州。妻とふたりの息子を養い、借金を抱えて汲々とした生活を…

ミスター・ディアボロ/アントニー・レジューン(扶桑社海外文庫)

「血染めのエッグ・コージイ事件」等のジェームズ・アンダースンに再評価の光をあてたり、「ケンブリッジ大学の殺人」のグリン・ダニエルを発掘したりと、〈扶桑社ミステリー〉の本格ミステリ路線は、細々とではあるが、通好みだ。今回出た『ミスター・ディ…

犬の力/ドン・ウィンズロウ(角川文庫)

冬の時代と言われる翻訳ミステリ界だけど、今年は近年にない豊作で、この秋も読みたい新刊に事欠かない幸せな日々だ。これも、本が売れないという、出版社にとっては究極の逆境の中にあって、日夜奮闘している編集者諸氏のお陰と、まずは今月もそっと手を合…

映画「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」の公開は正月第二弾

先月の東京国際映画祭でも上映され、その後ずいぶん映画館でポスターを見かけるようになりました、映画の「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」。試写もそろそろ始まっているのかな。公式サイトがオープンになり、そこで予告編(日本版)が観られます。冒頭に…