2010-01-01から1年間の記事一覧
来日した生のジェフリー・ディーヴァー見たさの野次馬根性で、新作のプロモーションを兼ねたトークショーを覗いてきた。観客を共作者に見立てて小説が出来るまでを語った講演も実に楽しかったが、興味深かったのは、その後の質疑応答の中で、『眠れぬイヴの…
久しぶりに血湧き肉躍る海洋冒険小説と出会った。チャールズ・マケインの『猛き海狼(上・下)』である。第二次世界大戦下、愛する祖国のために命を賭けて大海原へと乗り出していくドイツ海軍の若き士官が主人公だが、ゲルマンから眺めた英米が描かれるとい…
リニューアル後のポケミスには、一冊ごとに変わっていく装丁デザインの楽しみが加わったが、ポール・アルテの『殺す手紙』は、黒の色調を活かした、これまた粋な装いの一冊だ。中身が一段組みというのも、ポケミス史上初の試みだという。 物語は、第二次世界…
スペインの監督ホセ・ルイス・ゲリンの『シルビアのいる街で』もミステリ映画という物差しではかるなら、やはり厳しいものがあるといわざるをえないだろう。画家志望の青年グザヴィエ・ラフィットが、6年前に一度会った役者志望の女性を探し回るだけの物語…
デビュー作でいきなり本年CWA(英国推理作家協会)賞のゴールドダガーに輝いてしまったベリンダ・バウアーだが、受賞作の『ブラックランズ』は、児童を狙った連続殺人で服役中のシリアルキラーと、被害者の家族である十二歳の少年が、手紙のやりとりを通…
復活の狼煙とも言うべき『犬の力』で読者の前に返り咲いたドン・ウィンズロウだが、その漲る創作意欲は次の『フランキー・マシーンの冬』でも全く衰えていない。サンディエゴでいくつもの商売を器用に営み、余暇はサーフィンを楽しむ初老の男フランク・マシ…
ヨーロッパ全土に広がるナチスドイツの席巻に歯止めをかけ、第二次大戦の歴史的転換点になったと言われるノルマンディー上陸作戦。その史実を気象予測という視点から眺めたユニークなフィクションが、ジャイルズ・フォーデンの『乱気流(上・下)』である。…
本誌読者の中にも、ニール・ゲイマンをSFやファンタジイの人と思って敬遠している向きがあるやもしれない。しかし、もしそうなら大きな損をしていると思う。良質な英ミステリにも通じるユーモアと達者なストーリーテリングから繰り出される長編小説の数々は…
看板のキャスリーン・マロリーのシリーズよりも、単発作の『クリスマスに少女は還る』で語られることの多いキャロル・オコンネルだが、もう一篇あるノンシリーズが紹介された。『愛おしい骨』は、主人公オーレン・ホッブスが、長年勤めたアメリカ合衆国陸軍…
『ぼくと1ルピーの神様』という小説に思いあたらなくても、それを原作としてアカデミー賞に輝いた映画「スラムドッグ$ミリオネア」を知らない人はいないだろう。作者のヴィカーズ・スワループは、大阪に赴任中のインド総領事という人物だが、その第二作は付…
不勉強なことに、旧ソ連をペレストロイカ、さらには冷戦終結のマルタ会談へと向わせる大きなきかっけとなった事件のことを、この映画を観るまでわたしは知らなかった。フランス映画の『フェアウェル さらば,哀しみのスパイ』である。八十年代前半のブレジネ…
フリーマントル、ラドラム、クィネルといった国際謀略小説の巨匠らの名作を数多く紹介してきた新潮文庫だが、今回新たに仲間入りしたキース・トムスンの『ぼくを忘れたスパイ(上・下)』は、これまでのスパイものの常識を破る風変わりな作品だ。主人公のチ…
『夜愁』で文学方面に行ってしまうのかなと思わせたサラ・ウォーターズだが、新作の『エアーズ家の没落』では、堂々とジャンル小説への帰還を果たした。第二次世界大戦直後という設定は前作とほぼ同じだが、舞台をイングランド中部の田園地帯に移して、没落…
すでに、『そして誰もいなくなった』(青木久恵訳)と『五匹の子豚』(山本やよい訳)が書店に並んでいるようですが、続刊8作を含めて、合計10作の新訳版刊行が予定されているようです。続刊8作のラインナップと訳者は、次のとおりです。 なお、『そして…
ジョン・ダニングの『愛書家の死』は、『死の蔵書』に幕をあけた元警官で古書店を経営するクリフォード・グリーンウェイのシリーズの数えて五作目にあたり、現時点での最新作である。 馬主としても有名だった富豪が遺した児童文学のコレクションから、何者か…
すでに翻訳紹介された作品で、その実力を証明済みのオレン・スタインハウアーだが、東欧の架空の国を舞台に二十世紀の冷戦の時代を描いた連作に区切りをつけた作者が、今度は二十一世紀の世界情勢を踏まえて世に問うた作品が、『ツーリスト 沈みゆく帝国のス…
有名な死刑執行人の名を賞の名前に頂くアーサー・エリス賞(主催はCWCことカナダ推理作家協会)でおなじみのカナダのミステリ界は、『神々がほほえむ夜』のエリック・ライトや『悲しみの四十語』のジャイルズ・ブラントを始めとして、異端児マイケル・ス…
断片的に伝わってくる事前情報からは、その内容がまったくといっていいほど想像のつかなかったクリストファー・ノーラン監督の新作『インセプション』は、ミステリでいう 一種のケイパー(強奪)物だが、非常に風変わりな設定がなされている。天才的な産業スパ…
昨年のミステリ映画で、とりわけ強い印象を残した韓国映画の『セブンデイズ』については以前も書いているが、そのオリジナル脚本を担当したユン・ジェグが初めて監督した作品が『シークレット』である。主人公のチャ・スンウォンは、酔っ払い運転で事故を起…
『英雄たちの朝』、『暗殺のハムレット』と続いたジョー・ウォルトンの歴史改変三部作〈ファージング〉も、いよいよ『バッキンガムの光芒』がラスト。一作ごとに交代するヒロインだが、今回はオクスフォードへの進学が決まっている十八歳の少女エルヴァイラ…
ボストン・テランの『音もなく少女は』は、語り手としての作者の成長がうかがえる作品だ。デビュー作の『神は銃弾』は、異様な熱気と深い混沌が不思議な魅力ではあったけど、それに恐れをなした読者も少なくなかった。デビューから四作目にあたる本作では、…
デイヴィッド・ベニオフは、脚本も書くし、そもそもは映画畑に軸足をおいているようだが、文学の才も半端ではない。秀でたストーリーテラーぶりは、すでに『25時』や『99999』でおなじみだが、新装なったポケミスの第一弾として登場した『卵をめぐる祖…
2009年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞という鳴り物入りで登場したスペインとアルゼンチンの合作映画『瞳の奥の記憶』の監督は、ブエノスアイレス生まれのファン・ホセ・カンパネラである。カンパネラは、アメリカでテレビの連ドラを多数手がけて…
ウェールズ出身というサイモン・ルイスだが、本邦初紹介となる『黒竜江から来た警部』は、中国に詳しいというトラベルライターとしての彼のキャリアが下地になっているに違いない。主人公のマー・ジエンは、中国の七台河市公安局に籍をおく警部だが、ある時…
東宝と東映の両社が、ほぼ時を同じくして新幹線を題材にした作品を製作したのは、もう三十五年も前のことだ。社会派のベクトルにやや傾いた清水一行原作の「動脈列島」よりも、当時全盛だったパニック、ディザスター映画の要素を基調に、クライム・サスペン…
ポオの生誕二百年からは一年が過ぎてしまったが、若き日の巨匠が登場する印象的な作品を。惜しくも受賞は逃したものの、CWAのヒストリカル・ダガー賞とMWAの最優秀長篇賞にもノミネートされたルイス・ベイヤードの『陸軍士官学校の死』である。 一八三…
殺し屋を主人公にした物語なんか星の数ほど読んできたよ、というすれっからしの読者も、この作品には驚かされるのではないか。スチュアート・ネヴィルのデビュー作『ベルファストの12人の亡霊』の主人公フィーガンは、かつて凄腕の殺し屋としてIRAの仲間…
アンジェリーナ・ジョリーというと『トゥームレイダー』のララ・クロフト役を思い出す人も多いと思うが、そのスーパー・ヒロイン像のイメージそのままの彼女が再び登場するのが『ソルト』だ。アンジーの役どころは、CIAの女エージェント、イヴリン・ソル…
ファンタジーの分野から歴史改変テーマをひっさげミステリの世界へ堂々乗り込んできた世界幻想文学大賞作家ジョー・ウォルトンの〈ファージング〉三部作の『英雄たちの朝』に続くパート2は、『暗殺のハムレット』だ。前作のハンプシャー州の古い屋敷からロ…
いまやマンケルやラーソンばかりじゃないミステリの新王国スウェーデンから、カミラ・レックバリに続き、またも頼もしい新人が登場。なんでも海の向こうじゃマンケルの別名義じゃないかって噂がたったというから(ただし作風は違う)、その実力は推して知る…