2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

愛書家の死/ジョン・ダニング(ハヤカワ文庫)

ジョン・ダニングの『愛書家の死』は、『死の蔵書』に幕をあけた元警官で古書店を経営するクリフォード・グリーンウェイのシリーズの数えて五作目にあたり、現時点での最新作である。 馬主としても有名だった富豪が遺した児童文学のコレクションから、何者か…

ツーリスト 沈みゆく帝国のスパイ[上下]/オレン・スタインハウアー(ハヤカワ文庫)

すでに翻訳紹介された作品で、その実力を証明済みのオレン・スタインハウアーだが、東欧の架空の国を舞台に二十世紀の冷戦の時代を描いた連作に区切りをつけた作者が、今度は二十一世紀の世界情勢を踏まえて世に問うた作品が、『ツーリスト 沈みゆく帝国のス…

失踪家族/リウンッド・バークレイ(ヴィレッジブックス)

有名な死刑執行人の名を賞の名前に頂くアーサー・エリス賞(主催はCWCことカナダ推理作家協会)でおなじみのカナダのミステリ界は、『神々がほほえむ夜』のエリック・ライトや『悲しみの四十語』のジャイルズ・ブラントを始めとして、異端児マイケル・ス…

インセプション/クリストファー・ノーラン監督(2010・米)

断片的に伝わってくる事前情報からは、その内容がまったくといっていいほど想像のつかなかったクリストファー・ノーラン監督の新作『インセプション』は、ミステリでいう 一種のケイパー(強奪)物だが、非常に風変わりな設定がなされている。天才的な産業スパ…

シークレット/ユン・ジェグ監督(2010・韓)

昨年のミステリ映画で、とりわけ強い印象を残した韓国映画の『セブンデイズ』については以前も書いているが、そのオリジナル脚本を担当したユン・ジェグが初めて監督した作品が『シークレット』である。主人公のチャ・スンウォンは、酔っ払い運転で事故を起…

バッキンガムの光芒(ファージング3)/ジョー・ウォルトン(創元推理文庫)

『英雄たちの朝』、『暗殺のハムレット』と続いたジョー・ウォルトンの歴史改変三部作〈ファージング〉も、いよいよ『バッキンガムの光芒』がラスト。一作ごとに交代するヒロインだが、今回はオクスフォードへの進学が決まっている十八歳の少女エルヴァイラ…

音もなく少女は/ボストン・テラン(文春文庫)

ボストン・テランの『音もなく少女は』は、語り手としての作者の成長がうかがえる作品だ。デビュー作の『神は銃弾』は、異様な熱気と深い混沌が不思議な魅力ではあったけど、それに恐れをなした読者も少なくなかった。デビューから四作目にあたる本作では、…

卵をめぐる祖父の戦争/デイヴィッド・ベニオフ(ハヤカワ・ミステリ)

デイヴィッド・ベニオフは、脚本も書くし、そもそもは映画畑に軸足をおいているようだが、文学の才も半端ではない。秀でたストーリーテラーぶりは、すでに『25時』や『99999』でおなじみだが、新装なったポケミスの第一弾として登場した『卵をめぐる祖…

瞳の奥の秘密/ファン・ホセ・カンパネラ監督(西亜合作・2009)

2009年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞という鳴り物入りで登場したスペインとアルゼンチンの合作映画『瞳の奥の記憶』の監督は、ブエノスアイレス生まれのファン・ホセ・カンパネラである。カンパネラは、アメリカでテレビの連ドラを多数手がけて…