その土曜日、7時58分/シドニー・ルメット監督(2007・米英)


シドニー・ルメットは、御齢八十四歳にして、映画監督としてバリバリの現役で活躍中。最新作の『その土曜日、7時58分』は、ある家族の崩壊を描くと いうテーマはあるものの、ミステリ映画としても堂々たる仕上がりである。ニューヨーク郊外の小さな宝石店を狙った強盗は、たまたま居合わせた女店主が銃で 反撃したために、無残な失敗に終った。物語は、この一見ありふれた犯罪をめぐって何度も視点を変えながらリワインドされ、そのたびに事件の背景、さらに事 件が巻き起こした波紋を、克明に浮かび上がらせていく。銀行強盗の生き残りであるイーサン・ホークをめぐって、やがてその兄フィリップ・シーモア・ホフマンや父親のアルバート・フィニーらとの家族関係や、事件の全体像が露になっていくジグソーパズルにも似た手法は、まさにミステリ的。さりげない伏線が次々に浮かび上がってくる終盤は、とりわけミステリ映画の快感をこれでもかと味合わせてくれる。ケリー・マスターソンの精緻なオリジナル脚本も見事だが、老いをまったく感じさせないルメット監督の演出がなんとも冴えている。
[日本推理作家協会報2008年11月号]
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