幻影師アイゼンハイム/ニール・バーガー監督(2006・米捷)

個人的に「プレステージ」は、去年公開されたミステリ映画の中では屈指の傑作のひとつだと思っているが、『幻影師アイゼンハイム』は、そのクリストファー・ノーランの作品を連想させる。すなわち、十九世紀の世紀末という時代設定、原作への大胆な脚色、そして何より主人公がマジシャンであるという点で 共通点が非常に多い。(ちなみに、原作はスティーヴン・ミルハウザーの短編集「バーナム博物館」所収の「幻影師、アイゼンハイム」)崩壊へと向かうハプスブルグ帝国を舞台に、新鋭のニール・バーガー監督はイリュージョニストを名乗るマジシャンと公爵令嬢の悲恋を描くロマンスの物語というカンバスに、巧妙な騙し絵を描いてみせる。ただし、せっかくの種明かしの段になって駆け足になるのは、ちょっともったいないと思う。
[日本推理作家協会報2008年7月号]