運命の日/デニス・ルヘイン(早川書房)

あざといところのあるミステリだった『シャッター・アイランド』の次は、なるほどこう来ますか。というわけで、どういう事情かは知らぬが、わが国の先行刊行となるらしいデニス・ルヘインの新作『運命の日』は、時代の波に揺り動かされる二十世紀初頭のボストンを描く堂々たる歴史小説である。
ロシア革命の余波を受け赤化の危機にさらされる一次大戦下のボストン。市警の巡査エイデンは、警部である父親の差配で、組合組織の動きを内偵していた。しかし人望を集める彼は、窮状に喘ぐ仲間たちから待遇改善を市上層部に求める先鋒に担ぎ出されてしまう。一方、厄介ごとに巻き込まれた黒人の若者ルーサーは、愛する妻をオクラホマに残し、命からがらこの地へ逃れてきた。偶然の出会いがふたりに友情の機会をもたらすが、運命の歯車は彼らを過酷な試練へと追いやっていく。
何を書かせてもうまいルヘインだが、やはり器用貧乏に陥らない筆力の確かさがある。歴史上に実在した人物を大胆に配しながら、地の塩ならんとする警部一家の葛藤のドラマと絡めて、時代の変遷という荒波に揺れるボストンを克明に描いていく。ミステリとしての興味はほとんどないが、圧倒的な筆力で畳み掛ける物語の面白さは圧巻。ベーブ・ルースのエピソードが、時代の空気を醸し、ノスタルジックな雰囲気を高めるなど、効果的に使われている。
[本の雑誌2008年11月号]

運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 下 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 下 (ハヤカワ・ノヴェルズ)