ダークナイト/クリストファー・ノーラン監督(2008・米)

メメント』の捩れた脚本でアカデミー賞にもノミネートされたクリストファー・ノーラン監督だけど、その後アル・パチーノ不眠症の刑事を演 じた『インソムニア』は、リメイクということもあったのだろうか、やや焦点が甘かったが、昨年公開されたクリストファー・プリ―ストの「奇術師」を原作と した『プレステージ』は、ミステリ映画として素晴らしい出来映えだった。『ダークナイト』は以前撮った『バットマン・ビギンズ』に続くバットマン・シリー ズの新作だが、ここのところのノーラン監督の充実ぶりをたっぷりと窺わせてくれる仕上がりといえるだろう。なんといっても善対悪の構図を徹底的に突き詰め たストーリーが面白いし、究極の選択を次々に主人公と観客に突きつけてくる目眩めく展開がスリリングだ。さらには、本作を撮影後に急逝したヒース・レ ジャーがジョーカー役で迫真の演技を見せる一方で、執事のマイケル・ケインクリスチャン・ベール演じる悩めるバットマンを助けながら、小気味良い笑いを 織り込んでいく。そんな緩急をきかせたかのようなキャスティングの妙味も見事だと思う。
[日本推理作家協会報2008年8月号]