20世紀の幽霊たち/ジョー・ヒル(小学館文庫)

ちょっと前に長編の「ハートシェイプト・ボックス」を大絶賛したばかりのジョー・ヒルだけれど、あの極上のゴースト・ストーリーもまだまだこの作家にとっては、才能の片鱗に過ぎなかった。というわけで、ブラム・ストーカー賞にも輝いた『20世紀の幽霊たち』の登場である。紹介の順序が逆になったが、本書は海の向こうでこの作家の名を知らしめるきっかけとなった作品集で、収録作は三十ページ前後の小品が中心。しかし、その一つ一つは決して小粒じゃない。
恐怖小説のアンソロジストが辿る受難を描いた「年間ホラー傑作選」や、ドラキュラの重要なバイプレイヤーであるヘルシング教授のジュニアたちが登場する「アブラハムの息子たち」など、ホラーへの愛情がうかがわれるものもいいが、人生の一場面を鮮やかに切り取ってみせたような作品群がとりわけ素晴らしい。ヒルのそこはかとない文学性と抜群のリーダビリティ溢れる、ノスタルジックな幽霊譚「二十世紀の幽霊」、切ない叙情が胸を締めつける「ポップ・アート」、心の奥深くで繋がる父と子の交流を描く「うちよりここのほうが」などはその真骨頂ともいうべき出来映え。さらに軽妙、重厚を取り混ぜ、シニカルな味わいもまぶした傑作が目白押し。どうか、作品集の隅々まで(実はここが重要!)ヒルストーリーテリングの魅力を味わってほしい。
[本の雑誌2008年10月号]

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)