老検死官シリ先生がゆく/コリン・コッタリル(ヴィレッジブックス)

メコンの流域、インドシナ半島の東寄りにあるラオス人民民主共和国を舞台にしたユニークな新シリーズの第一作『老検死官シリ先生がゆく』を。主人公は、新生間もないこの共産主義国家でたったひとりの検死官。齢七十二歳、年金生活の夢破れたこの老医師の多忙極まりない日々を描いていく。
なんといっても最高なのは、シリ先生の飄々としたキャラクターで、弱者にむける優しい眼差しだけでなく、時に権力に反発し気骨のあるところも見せる。作者のコリン・コッタリルは、ロンドン生まれのイギリス人で、本作は英国推理作家協会(CWA)賞にもノミネートされた逸品。ちょっと反則気味の奥の手もご愛嬌の先生だが、まずは上々のシリーズ滑り出しで、次作への期待がつのる。
[本の雑誌2008年11月号]

老検死官シリ先生がゆく (ヴィレッジブックス)

老検死官シリ先生がゆく (ヴィレッジブックス)