2008-01-01から1年間の記事一覧

裏切りの闇で眠れ/フレデリック・シェンデルフェール監督(2006・仏)

昨年のフランス映画祭で先行上映され、一部のファンから注目を集めていた「暗黒街の男たち」が『裏切りの闇で眠れ』と改題され、ついにロードショー公開された。危険な仕事の請負人として、裏社会を生きているヤクザ者の主人公フランクを見つめる醒めたタッ…

道化の死/ナイオ・マーシュ(国書刊行会)

クラシック・ミステリのリバイバルの流れに、その牽引車として大きな役割を果たした国書刊行会の〈世界探偵小説全集〉が、ついに完結した。ときに老舗の創元推理文庫やハヤカワ・ミステリをもリードする慧眼なセレクトで、思わずため息の出るようなラインナ…

道化の町/ジェイムズ・パウエル(河出書房新社)

ジェイムズ・パウエルの『道化の町』は、ジャック・リッチーやロバート・トゥーイなど、一連の短編作家再評価の流れを組む一冊といっていいだろう。知名度では先発組に劣るかもしれないが、個性派という点ではミステリ界を眺め渡しても、パウエルほどの作家…

聖者は口を閉ざす/リチャード・プライス(文藝春秋)

「フリーダムランド」以来、久々の紹介となるリチャード・プライスの『聖者は口を閉ざす』。ミステリというより、物語の中心に謎を据えた普通小説というべきかもしれないが、その謎はなかなか魅力的だ。主人公のレイは、ある日自宅で何者かに殴打され重傷を…

変わらぬ哀しみは/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワミステリ文庫)

ここのところの不調続き(悪い作品ではないが、「魂の眠れ」や「ドラマ・シティ」はいまひとつの印象だった)で、作家としての曲がり角にさしかかっているのでは、とちょっと心配だったジョージ・P・ペレケーノスだけれど、『変わらぬ哀しみは』は、デレク…

古城ホテル/ジェニファー・イーガン(ランダムハウス講談社)

長篇小説は五年に一冊という、寡作な作家ジョニファー・イーガン。デビュー作の「インヴィジブル・サーカス」は、キャメロン・ディアス主演で映画(邦題「姉のいた夏、いない夏」)にもなったので、ご存知の向きもあるだろう。『古城ホテル』は、二○○六年に…

ルインズ 廃墟の奥へ/スコット・スミス(扶桑社海外文庫)

大評判になったデビュー作以来ずいぶんと音沙汰がなくて、一発屋とも、二作目のジンクスとも陰口を叩かれていたスコット・スミスだけれども、やっと新作が届けられた。前作からは十三年ぶりの『ルインズ 廃墟の奥へ』である。 バカンスでメキシコのユカタン…

検死審問‐インクエスト-/パーシヴァル・ワイルド(創元推理文庫)

新訳で登場したパーシヴァル・ワイルドの『検死審問‐インクエスト-』は、遺言書を書き換えたばかりの売れっ子女性作家の屋敷で起きた猟銃による死亡事件をめぐって、田舎町の検死裁判が繰り広げるすったもんだを愉快に描いた逸品。有名な劇作家の余技的な作…

紳士たちの遊戯/ジョアン・ハリス

ジョニー・デップ主演の映画「ショコラ」の原作者としてお馴染みのジョアン・ハリスが書いたミステリとして、エドガー賞にまでノミネートされたというのが『紳士たちの遊戯』である。伝統を誇る男子校セント=オズワルドに、新学期がやってきた。しかし、新…

紫雲の怪/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワミステリ)

ロバート・ファン・ヒューリックが唐代の中国を舞台に描く歴史ミステリ、ディー判事シリーズも、七年前からポケミスが新訳でコツコツと刊行してきて、残すところあと僅か。未紹介長編としては最後のひとつ、『紫雲の怪』の登場である。西の辺境蘭坊に赴任し…

グリンドルの悪夢/パトリック・クェンティン(原書房)

作家としての知名度も、作品の紹介数もそれなりにあるパトQことパトリック・クェンティンだが、『グリンドルの悪夢』を読むと、そんな過去の評価も氷山の一角に過ぎなかったか、という思いにとらわれる。このクラスの作品が未紹介で眠っているなら、もっと…

ルーズベルト暗殺計画/デイヴィッド・L・ロビンズ(新潮文庫)

「鼠たちの戦争」の作者デイヴィッド・L・ロビンズが、今なおその死に謎が残る第三十二代アメリカ合衆国大統領ルーズベルトをめぐる史実に取材した『ルーズベルト暗殺計画』。二次大戦下、大統領の命を狙って、すご腕の女暗殺者がワシントンに潜入する。そ…

ホット・キッド/エルモア・レナード(小学館文庫)

エルモア・レナードは生年が一九二五年だから、『ホット・キッド』は御歳八十才で上梓した作品ということになる。いまだ新作と届けてくれるというだけでも素晴らしいのに、それがかつての作品に負けず劣らずの傑作だというのだから、本当に驚かされる。主人…

ロジャー・マーガトロイドのしわざ/ギルバート・アデア(ハヤカワ・ミステリ)

1800番の節目だったP・D・ジェイムズの「灯台」から、ポケミスの帯がやや縦長になって、新しいビジュアルが表紙を飾るようになった。毎回その写真や絵柄には適宜な計らいがあって、これから読もうとしている本への興味を視覚的にかきたててくれる悪く…

1/2の埋葬/ピーター・ジェイムズ(ランダムハウス講談社文庫)

『1/2の埋葬』は、イギリスから登場した新シリーズブライトン市警ロイ・グレイス警視シリーズの第一作である。作者のピーター・ジェイムズはブライトン出身だが、以前はアメリカで映画の脚本やプロデュースという仕事に精を出していたようで、本作の持ち味…