七番目の仮説/ポール・アルテ(ハヤカワ・ミステリ)

古い下宿屋の長い廊下の密室状況で、医師たちが運ぶ担架の上から消えうせた患者、また巡回中の警察官を嘲笑うように忽然とゴミ缶の中に現れた死体。例によって、本家ディクスン・カーも真っ青という不可能趣味に溢れた謎を冒頭から読者につきつけてくるのは、ポール・アルテの『七番目の仮説』である。すでにおなじみになったツイスト博士とハースト警部の名コンビが、今回も大活躍をみせる。
しかし、そんな不可能犯罪をめぐるアクロバティックな推理の面白さも去ることながら、今回楽しませてもらったのは、四部構成中の第二部で繰り広げられる劇作家と俳優の騙し合いで、わたしは映画の「探偵 スルース」を思い浮かべて、頬を緩めることしばし。アルテは入れ子のような挿話を器用に使いこなす作家だが、今回はこのふたりの丁々発止のやりとりだけで曲者アルテの本領を堪能した気がする。
[本の雑誌2008年11月号]

七番目の仮説 (ハヤカワ・ミステリ 1815 ツイスト博士シリーズ)

七番目の仮説 (ハヤカワ・ミステリ 1815 ツイスト博士シリーズ)