ウォンテッド/ティムール・ベクマンベトフ監督(2008・米)


突然襲ってくるパニック症候群のせいで、会社では女の上司からパワハラ、恋人も親友と浮気し放題、そんなぱっとしない青年ジェームズ・マカヴォイが、ドラッグストアでごっつい美女のアンジェリーナ・ジョリーに声をかけられ、壮大なスケールの陰謀に巻き込まれていくという『ウォンテッド』。いにしえから神 の意思を暗殺という手段で実現してきた謎の組織というトンデモな設定は、原作のグラフィックノベル<アメコミ>によるもので、ハチャメチャな銃撃戦やカー チェイスなど、そこに繰り広げられる非日常のオンパレードともいうべき、一種のファンタジーの世界は、前月取り上げた『ダークナイト』にも通底するものが ある。ただし、あちらがペシミスティックに徹した暗い世界観に支配されていたのに対し、『ウォンテッド』は銃の弾道を変える小技から、列車アクションのス ペクタクルまで、この方面ではすでに古典となった『マトリックス』直系のCGを駆使し、さまざまな荒唐無稽を脳天気なくらい陽性に繰り広げる。監督は、『ナイト・ウォッチ』と続編の『デイ・ウォッチ』をステップボードに、本作でハリウッド進出を果たしたロシア出身のティムール・ベクマンベトフ。あえて大味のそしりを受け流し、愉快な破天荒さを楽しむのが吉だろう。
[日本推理作家協会報2008年10月号]