絞首人の手伝い/ヘイク・タルボット(ハヤカワミステリ)

ヘイク・タルボットの「魔の淵」は、その昔ジョン・スラデックの「見えないグリーン」とともに遅れてやってきた幻の密室ものとしてわが国に紹介されたが、タルボットには実はもう一冊密室ものがある。本作『絞首人の手伝い』がそれで、「魔の淵」の賭博師探偵ローガン・キンケイドが登場するが、こちらの方が作品的には古く、タルボットの長編デビュー作と言われている。
約四百メートルの沖合いに浮かぶ孤島のクラーケン島。島の主人フラントからの招きで、ローガンはニューヨークからはるばるやってきた。しかし、到着が遅れた彼を迎えたのは、死体となったフラントだった。事件は、前夜の晩餐会に起きていた。口論のさ中、義弟が呪いの言葉を口にするや、フラントは謎の死を遂げ、その死体はたちまちのうちに腐敗してしまった。さらに、その晩ローガンは密室状況の中で何者かに命を狙われる。フラント一族に伝わる呪いが原因なのか、それとも。相次ぐ謎の事件をめぐり、ローガンら容疑者たちと警察の間で熾烈な犯人捜しのディスカッションが繰り広げられることに。
徹底した不可能趣味で、ありえない謎のつるべ打ちといった事件の部分も見事だが、感心したのは容疑をかけられた者同士が、必死になって応酬しあう推理合戦で、サスペンスもたっぷりあれば、多重解決を孕んだ試行錯誤の面白さもたっぷりと盛られている。タルボットは、劇作家としての成功を望んでいたと伝えられているが、登場人物たちのやりとりの緊張感から、その劇作家としてのスキルの高さは十分に伺える。とってつけたような伝奇の部分はややおざなりだが、ロジャーズの「赤い右手」にも似た不思議な熱気を堪能した。
[ミステリマガジン2008年7月号]

絞首人の手伝い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

絞首人の手伝い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)