ロスト・エコー/ジョー・R・ランズデール(ハヤカワミステリ文庫)

なんだか久しぶりの翻訳紹介という気がするジョー・R・ランズデールだが、『ロスト・エコー』は二○○七年の新作である。テキサスの田舎町を舞台に、六歳のときの発熱で不思議な力を身につけた少年が主人公という、いかにも作者らしいお話だ。
 主人公のハリーは、物に触れると頭の中にイメージが浮かび、色彩が炸裂する不思議な力を持っている。それは場所や物に刻み込まれた記憶を読み取る能力だったが、なぜか暴力や恐怖にまつわるものばかりだった。幼い頃の彼は、そんな脳内の幽霊たちに散々悩まされたが、成長とともにやがてその力をコントロールする術を身につけていった。しかし、大学生になった彼は、その力がもとで窮地に立たされてしまう。パーティで訪れた恋人の屋敷で、過去に行われた犯罪の場面を読み取ってしまったのだ。しかも、犯人は恋人の父親。ハリーは、親友の武道家と幼馴染みの女性警官の助けを得て、事件の真相を必死に追い求めるが。
 「ボトムズ」にせよ、「ダークライン」にせよ、ランズデールの作品には抜群のリーダビリティとともに南部ゴシックの重厚さが欠かせないが、本作はやけに軽快さが先行する。さてはペイパーバック・オリジナルかと思ったが、それも違うようだ。所謂超能力者の悲劇をベースに、青春小説の甘酸っぱさと、友情物語の感動、さらには成長小説のカタルシスまであるのだから、さらに望むのは贅沢かもしれないが、ランズデールの代表作と天秤にかけると軽量級は否めない。とりわけ、悪漢の正体が明かされてからの展開が大味なのは残念。
[ミステリマガジン2008年8月号]

ロスト・エコー (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 12-3)

ロスト・エコー (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 12-3)