最高処刑責任者/ジョゼフ・フィンダー(新潮文庫)

いろいろなタイプの小説にチャレンジしてきた過去もあるジョゼフ・フィンダーだが、近年手を染めている企業小説系の分野が、わたしは一番水にあっているような気がするが、どうだろう。『最高処刑責任者』も、日本企業から買収され、さらには他社との合併も進行中という企業で働く営業マンが主人公。ある人物との偶然の出会いから、それまでの不遇が嘘のように前途に出世の道が開けていくが、そうそう旨い話ってのはないわけで。
善意の人と思われた人物が次第に本性を露わにしていくというサスペンスものは昔から割りとよくあって、本作もその範疇にある。しかし、そのありがちな話を面白くしているのが、業界の裏話や営業職のサクセスストーリーが絡んでくるあたりで、ミステリに企業小説の要素を絶妙なバランスで混ぜ合わせている。意味のぼやけた邦題が玉に瑕だが、リーダビリティは保障する。
[本の雑誌2008年12月号]

最高処刑責任者〈上〉 (新潮文庫)

最高処刑責任者〈上〉 (新潮文庫)

最高処刑責任者〈下〉 (新潮文庫)

最高処刑責任者〈下〉 (新潮文庫)