処刑人の秘めごと/ピーター・ラヴゼイ(早川書房)

ミステリ作家としての生涯の功績を讃えるダイヤモンドダガー賞というのが英国推理作家協会(CWA)にはあるが、功労賞的なこの賞をもらっても、隠居どころか、もうひと花咲かせる勢いで活躍を続けるベテラン作家がイギリスにはごろごろいる。ピーター・ラヴゼイもそのひとりで、二○○○年に同賞に輝いてからというもの、新作にますます磨きがかかってきた。中でも「漂う殺人鬼」からスピンオフしたマリン主任警部が活躍する「殺人作家同盟」の堂々たる謎解きには相当驚かされたけど、ダイヤモンド警視シリーズに立ち返った『処刑人の秘めごと』でも、この作家はやはり元気だ。
われらがダイヤモンド警視のもとに、謎の女性から交際を求める恋文が舞い込むというのが発端。さらにお手製のケーキが警察署に届くが、そんな珍事(?)にかまける間もなく、バースの町では不審死事件が続発し、警視を悩ませる。公園のブランコ、鉄橋と立て続けに吊るされた死体が衆人環視の場所で見つかり、やがて、過去にも似た事件が起きていたことも明らかになる。そんな折、上司からの圧力で荒っぽい手口の盗難事件を同時に抱えることになり、てんやわんやの事態へ陥っていくのだが、事件を繋ぐミッシングリンク探しの試行錯誤はぶれることなく事件の芯になっており、この作家の面目躍如たるものがある。一方、亡妻のことが忘れられない警視は、予期せぬ新たな出会いに動揺を隠せないが、そのあたりを含めて、最後は合理的に謎が解かれる結末に、しっかりと読者を案内してくれる。今回も、このベテランの筆の冴えには一点のくもりもありません。
[本の雑誌2008年10月号]

処刑人の秘めごと (ハヤカワ・ノヴェルズ)

処刑人の秘めごと (ハヤカワ・ノヴェルズ)