ノーカントリー/イーザン&ジョエル・コーエン監督(2007・米)

アカデミー賞受賞のニュースにちょっと驚いたイーサンとジョエルのコーエン兄弟が監督した『ノーカントリー』は、昨年わが国にも翻訳紹介されたコーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」を映画化した作品だ。この兄弟作品では、ノースダコタの田舎町で起きた誘拐殺人事件の顛末を描いた「ファーゴ」がミステリ映画として印象に残っているが、ギャングの金を持ち逃げしたベトナム帰還兵と、それを追う殺し屋の物語からは、現代アメリカの荒涼たる風土と社会の荒 廃が浮かび上がる。殺し屋を演じるハビエル・バルデムの不気味な存在感は、テレビCMのせいで妙に人懐こい保安官役のトミー・リー・ジョーンズと好対照をなしている。意外なほど原作に忠実な作りだが、コーエン兄弟はエピソードの配列に手を入れていて、その結果物語は非常に印象的なラストシーンで幕を降ろす。
[日本推理作家協会報2008年5月号]