12人の怒れる男/ニキータ・マハルコフ監督(2007・露)

ロシアの映画界を代表するひとりといわれるニキータ・ミハルコフ監督が、チェチェン独立戦争下に起きた犯罪をテーマにリメイクしたという触れ込みから、『12人の怒れる男』は、もっとゴリゴリした社会派を想像していた。しかし映画館に足を運んでみて、そんな先入観はあっさりと裏切られた。いや確かに、養 父殺しの罪を問われる青年や、陪審員として集められる十二人の背景に、民族紛争に揺さぶりをかけられる国家の混迷を見て取ることができるのだけれども、物 語が進行するにつれて、それらはあくまで背景に過ぎないことが判ってくる。改修中の陪審員室にかえて、学校の体育館をあてがわれた陪審員たちの間で、容疑 者アブティ・マガマイェフの有罪無罪をめぐり二転三転していくあたりはルメット版でもお馴染みだが、十二人の議論がハリウッド映画もかくやというドラマ チックかつエンタテインメントの乗りで繰り広げられるのには、正直びっくりした。やや大味なところもあるが、観客の意表を突く点では、(巨匠ルメットには やや申し訳ない気もするが)このミハルコフ版に軍配を上げてもいいだろう。原典の精神をそのままに大胆な換骨奪胎を施したリメイクに大きな拍手を送りたい。
[日本推理作家協会報2008年11月号]