譜めくりの女/ドゥニ・デルクール監督(2006・仏)

楽器演奏者の傍らで楽譜の頁をめくる助手を譜めくりという。この仕事は、単に楽譜が読めるだけではだめで、演奏中は演奏者とシンクロするほどの阿吽の呼吸が必要とされる。自らがヴィオラ奏者としても有名なドゥニ・デルクール監督の『譜めくりの女』は、ピアニストとその譜めくりという主従関係に焦点を合わせた異色のサスペンス映画である。カトリーヌ・フロ演じる人気ピアニストに近づき、彼女ばかりか彼女の家族にまで取り入る有能な譜めくりの女を若手のデボ ラ・フランソワが好演。終始穏やかな表情をたたえながら、ふいにのぞかせる一途な復讐心に慄然とさせられる。最初は真綿で首を絞めるように、最後は完膚なきまでに恨みを晴らして去っていくアンチ・ヒロインの後姿が印象的だ。
[日本推理作家協会報2008年7月号]