スリーピング・ドール/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)

まさに、卵と鶏ならぬ、探偵役と犯人役。そもそもこの本作のアイデアはどっちから出発したのか作者に尋ねてみたくなるジェフリー・ディーヴァーの『スリーピング・ドール』は、かたや人間嘘発見器とでもいうべき訊問の専門家キャサリン・ダンス、かたやマインドコントロールの達人で、カルト集団を率いていた過去もある終身刑囚のペル。このまたとない顔合わせとなった両者が、追うものと追われるものに分かれて虚々実々の知的攻防戦を繰り広げる。
互いの手の内を読みあい、スリリングに展開していく追跡劇も読み応え十分だが、やがて犯人側の不可解な行動に気づいた捜査側が、ペルに有罪判決が下された一家惨殺事件の唯一の生き残りでスリーピング・ドールと呼ばれる少女にお話の焦点が移っていくあたりからディーヴァーお馴染みの得意技が炸裂していく。それと同時に、家族をめぐるテーマが浮上してきて、小説としての読み応えがぐっと増してくるあたりに、ディーヴァーの進境が窺える。
[本の雑誌2008年12月号]

スリーピング・ドール

スリーピング・ドール