イースタン・プロミス/デヴィッド・クローネンバーグ監督(2007・英加)

タイトルは、英国における東欧犯罪組織の人身売買契約を指すらしいデヴィッド・クローネンバーグ監督の新作『イースタン・プロミス』。赤ん坊を出産して死んだ身元不明の少女が遺した手帳には、彼女をレイプし、売春をさせていたロシアン・マフィアのボスについて記されていた。そうとは知らず、助産師のナオミ・ワッツは手がかりを追って当のボスを訪ねてしまうが、そこで謎めいた運転手ヴィゴ・モーテンセンと出会う。先月紹介した「フィクサー」と今年のエドガー賞の映画部門を争ったというのもむべなるかな、単なる暗黒街ものに終らない味なサプライズが仕掛けられており、ロンドンの街に澱む暗く湿った空気と、そこを根城にするロシアン・マフィアたちの面構えがいい雰囲気を醸している。脚本はTVや文学の畑でも実績のあるスティーブ・ナイト。クローネンバーグの 出自を思い起こさせてくれるエグい描写も、随所にあり。
[日本推理作家協会2008年8月号]