2011-01-01から1年間の記事一覧
ジョージェット・ヘイヤーの名は、わが国でも数冊が訳されているロマンス小説の方面ではともかく、ミステリ・ファンの間では長らく語られることがなかった。しかし、昨年ほぼ時を同じくして紹介されたウォーターズの『エアーズ家の没落』とウォルトンの『英…
そもそも時代の空気に敏感なミステリ叢書の老舗として鳴らしてきた〈ハヤカワ・ミステリ〉が、敢えて〈新世代作家紹介〉の看板を掲げた連続刊行の企画は、なかなかの成功を収めつつあるようだ。デイヴィッド・ゴードン(『二流小説家』)、ヨハン・テリオン…
『グリフターズ/詐欺師たち』のアネット・ベニング、『デッド・カーム/戦慄の航海』のニコール・キッドマン、『シャッター アイランド』のミシェル・ウィリアムズといった過去にミステリ映画でいい仕事をした女優たちがずらりと顔を揃えた本年アカデミー賞…
ここのところ次々と紹介される北欧からの新たな才能だが、ノルウェーの女性作家カリン・フォッスムもその一人だ。『湖のほとりで』は、映画ファンならご存知のように、同題のイタリア映画(日本公開は2009年)の原作で、スカンジナビア半島のフィヨルド…
焦がれた再会を心から喜びたい作品である。前作の『鎮魂歌は歌わない』が出たのが三年ほど前。その後音沙汰がなく、続編が紹介されることはもうないのだろうと諦めていただけに、喜びもひとしお。ロノ・ウェイウェイオールの第二作『人狩りは終わらない』で…
計画停電による映画館の休館や公開予定の延期、中止が相次ぐなど、3・11の大震災は映画の世界にも大きな影響を及ぼしたが、この作品もそのあおりを受けたひとつ。幸いにしてお蔵入りは免れたものの、邦題として当初予定されていた『身元不明』を原題どおり…
原作とその映画化が似て非なるものなのは当然だが、マーティン・ブースの『暗闇の蝶』(『影なき紳士』のタイトルでも旧訳あり)を映画化したアントン・コービン監督の『ラスト・ターゲット』は、原作のエッセンスを抜き出し、それを鮮やかに再構築してみせ…
ロマン・ポランスキーといえば、アイラ・レヴィンの『ローズマリーの赤ちゃん』やローラン・トポールの『幻の下宿人』の映画化などで、かつてはミステリの世界とも縁浅からぬ映画監督のひとりだったが、久しぶりにそんな古い話を思いださせてくれる話題が、…
一九九九年の『雨に祈りを』以来だから、なんと十一年ぶり。そんなパトリック&アンジー・シリーズの新作が、いきなりの最終回だなんて。デニス・ルヘインの『ムーンライト・マイル』は、六作目にして泣いても笑ってもこれが読み収めとなるシリーズの最後の…
力のこもった長編の数々に較べると、その箸休めというか、余技的と思えるものがこれまでは多かったが、今回の『15のわけあり小説』では、そんな器用さよりも短編作家としての本領を見せつける作品が多いことに嬉しい驚きをおぼえる。 例えば、収録作のひとつ…
舞台を固定しての春夏秋冬をめぐる連作というと、スコットランド沖に浮かぶ島々を舞台にしたアン・クリーヴスの〈シェットランド四重奏〉がすぐに思い浮かぶが、ヨハン・テオリンの『黄昏に眠る秋』はスウェーデンの南東、バルト海上のエーランド島の移り行…
『刑事ベラミー』は、2010年9月に惜しまれて世を去ったクロード・シャブロル監督の遺作にあたる。妻のマリー・ビュネルに引っぱられるように、彼女の実家である夏の南フランスをバカンスで訪れた刑事のジェラール・ドパルデュー。そこに、忽然と謎の男…
特集上映や研究書の翻訳出版など、クロード・シャブロルをめぐり改めての評価が進められているようだ。先の東京国際映画祭で上映された遺作の『刑事ベラミー』を取り上げたときにも触れたが、かつてヌーベルバーグの旗手と謳われたこの巨匠にはヒッチコック…
五年前に翻訳紹介された原作は、純文学系の作品でありながら、その年の〈このミス〉でベストテンにも滑り込んだ日系のイギリス作家カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』である。それを、デ・パルマの下についたこともあるというMTV世代の監督マーク…
ここのところ台頭めざましい北欧の作家勢の中で、〈ミレニアム〉三部作のラーソンと肩を並べる最右翼は、間違いなくこのカミラ・レックバリだろう。彼女の〈エリカ&パトリック事件簿〉も、『悪童』でシリーズ三作目を迎える。主人公のカップル、小説家のエ…
メガホンをとっているのは、イギリス出身の監督マイケル・ウィンターボトム。町の保安官助手をつとめる主人公のケイシー・アフレックは、上司である保安官のおぼえもよく、長年付き合っている恋人ケイト・ハドソンと愛し合っている。しかし、あるとき市民か…
ページをめくりながらこれが本当に二十一世紀に書かれた小説かとわが目を疑いたくなるような一冊である。(原著の発表年は二○○六年)本作とさらに続編をのこし、惜しまれて世を去ったマイケル・コックスのデビュー作『夜の真義を』は、十九世紀のイギリスを…
第二次世界大戦を舞台にした外套と短剣の物語『針の眼』でデビューしたケン・フォレットも、いまやベテラン作家の仲間入りを果たし、近年では歴史ものの分野にその執筆活動の軸足を移している。本作に先立つ『大聖堂』とその続編では、中世のイングランドを…
痛いというと、痛々しいの意味で使われていることが多い昨今だが、『アンチクライスト』はまさに肉体的な苦痛に満ちた?痛い?映画だ。雪の晩に起きた悲劇で物語の幕はあがる。ウィレム・デフォーとシャルロット・ゲンズブールの夫婦は、ある晩情欲にかられて…
一昨年の東京国際映画祭で上映され、ひと握り好事家の間では評判だったジョニー・トーがワイ・カーファイと組んで合同監督した『MAD探偵 7人の容疑者』が、やっと一般公開された。過激ともいえるプロファイリング捜査で周囲を唖然とさせながらも、難事件…
『ブローン・アパート』は、ロンドンのイーストエンドで夫やひとり息子と暮らす三人家族の妻役を、『シャッター アイランド』にも出ていたミシェル・ウィリアムズが演じる。彼女の夫は、警察で爆発物の処理の仕事をしているが、相次ぐ事件の緊張感からか心を…
世界中のミステリ・ファンが集う〈バウチャーコン〉で、ベスト・スリラー賞に輝いたブレット・バトルズの『裏切りの代償』は、フリーランスの?清掃屋?ことジョナサン・ウィンが活躍する〈掃除屋クィン〉シリーズの第二作である。 今回舞い込んだ仕事は、ロス…
「アイアンマン」とその続編、「ウォッチメン」、「キック・アス」等々、グラフィック・ノベルの映画化はまさに百花繚乱の賑やかさで、アメコミ門外漢の目から見ても、その相性の良さには、どこか格別のものがあるように思える。グラフィック・ノベルって何…
出会いに期待と緊張感はつきものだが、新たに届けられたシリーズものの最初の一冊をひもとくスリルは、やはりひとしおのものがある。今月は、そんな気分を存分に味わわせてくれた一冊から。欧州中部の共和国スロヴァキアを舞台にした警察小説シリーズの幕が…
裁判員制度がスタートして間もなく二年が過ぎようとしているが、この間一般市民の司法に対する関心が一段と高まったことは間違いのないところだろう。『いたって明解な殺人』(新潮文庫)は、アメリカから登場したグラント・ジャーキンスという新人作家のき…
「ブラックパワー」という言葉も、ずいぶんと古めかしい響きになってしまったが、昨年のエドガー賞で新人賞の候補にもあがった女性作家アッティカ・ロックの『黒き水のうねり』では、この言葉が人種差別の撤廃を求め、結集を呼びかける急進派黒人たちのスロ…
わが国の読者に新作が届けられるのはなんと八年半ぶりというスティーヴ・マルティニだが、『策謀の法廷』はおなじみ弁護士ポール・マドリアニが、またもやめざましい活躍をみせる。 第一級謀殺の容疑で投獄されている依頼人のルイスは、二十年にわたる軍役を…
司法取引の是非をめぐっては、日本でもさまざまな議論があるようだが、F・ゲイリー・グレイ監督の『完全なる報復』は、この罪と罰をめぐる取引の問題点に鋭く迫った作品だ。ジェラルド・バトラーは二人組の強盗に襲われ、妻と幼い娘を殺される。まもなく犯…
過去の改変とタイムパラドックスを主題にした小説は数多いが、リチャード・ドイッチの『13時間前の未来(上・下)』(新潮文庫)は、無残にも殺された妻の死を回避しようと、時間を遡りながら真犯人をつきとめていく男の物語だ。濡れ衣を着せられ警察から取…
MWAが出版社のセント・マーティンズと共催した「ミナトーブックス・ミステリコンテスト」で第一席に選出されるや、その勢いでエドガー賞の最優秀新人賞にも輝いてしまったのが、ステファニー・ピントフの『邪悪』だ。一九○五年のニューヨーク近郊のドブソ…