ゴーストライター/ロマン・ポランスキー監督(2010・仏独英)

ロマン・ポランスキーといえば、アイラ・レヴィンの『ローズマリーの赤ちゃん』やローラン・トポールの『幻の下宿人』の映画化などで、かつてはミステリの世界とも縁浅からぬ映画監督のひとりだったが、久しぶりにそんな古い話を思いださせてくれる話題が、インターネットの映画サイトで立て続けに目にとまった。そのひとつは、英国の〈ガーディアン〉とその日曜版〈オブザーバー〉紙が選んだ「永遠の名作映画」のベスト1に、ポランスキーの『チャイナタウン』が選ばれたというもので、ご存知のようにこの映画は私立探偵役をジャック・ニコルソンが演じたフィルム・ノワールの香り漂うハードボイルド映画でもあった。(ちなみに、二位はヒッチコックの『サイコ』とのこと)そして、もうひとつは、最新作の『ゴースト・ライター』が、今年のヨーロッパ映画賞において作品賞をはじめとする6部門で受賞を果たしたというニュースだった。
その『ゴーストライター』は、ロバート・ハリスが書いた同題のポリティカル・フィクション(講談社文庫刊)の映画化で、ポランスキーの映画はすでにベルリン国際映画祭でも銀熊賞に輝いている。英国首相の座をリタイアしたピアース・ブロスナン回顧録を出版するため、作家志望のユアン・マクレガーがゴースト・ライターに雇われるところから物語は始まる。妻のオリヴィア・ウィリアムズを伴い滞在している別荘に元首相を訪ね、ユアンは寝泊りしながら取材と執筆を始めるが、前任者の死に不審な点があることを知る。
出来は悪くなく、いい拾い物をした気にさせられる。出演者では、誰よりも物語の要ともいえる元首相の妻を演じるオリヴィア・ウィリアムズがしっかりとした芝居で物語の骨格を支えている。え?と思ったピアース・ブロスナンの配役も、すぐになるほどと納得がいく。暗く湿った色調が全編を覆っているのは、観客の不安感を煽っているのだろうか。終盤ユアン・マクレガーが行動に転じるパーティの場面から幕切れにかけて流れが手に汗を握らせてくれる。原作の面白さに負うところも大きいと思うが、ベテラン監督の手堅い演出ぶりは評価してもいいだろう。
日本推理作家協会報2011年1月号]
※2011年8月公開予定
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