法廷・リーガル
連邦検察局在籍時代に書いた『推定無罪』でスコット・トゥローに注目が集まったのは一九八七年。少し遅れてデビューした『ザ・ファーム/法律事務所』のグリシャムらとともに、リーガル・スリラーの分野を牽引したのは、今から四半世紀近くも前のことになる…
一方が法廷推理ブームの礎「推定無罪」の続編『無罪』で読者を驚かせたかと思えば、片やいきのいい新作『自白』で応酬。S・トゥローとJ・グリシャムの重鎮が揃って気を吐くリーガルスリラーの分野が元気だが、もう一人注目の新人が登場した。六十五歳のデ…
孔枝泳(コン・ジヨン)は、辻仁成とのコラボレーション作品もある韓国の女性作家だ。若かりし頃には労働運動にも身を投じたこともある彼女の『トガニ 幼き瞳の告発』は、二○○五年韓国南部の都市光州で起きた聴覚障害者特殊学校における虐待事件とその後の裁…
ごく一部の作品を除けばマイクル・コナリーの作品は主要な登場人物を介して繋がり、一大サーガのようなものを形作っているが、リンカーン弁護士ことミッキー・ハラーもそんなキーパーソンの一人だ。『真鍮の評決』では、そのハラーとハリー・ボッシュとの意…
裁判員制度がスタートして間もなく二年が過ぎようとしているが、この間一般市民の司法に対する関心が一段と高まったことは間違いのないところだろう。『いたって明解な殺人』(新潮文庫)は、アメリカから登場したグラント・ジャーキンスという新人作家のき…
「ブラックパワー」という言葉も、ずいぶんと古めかしい響きになってしまったが、昨年のエドガー賞で新人賞の候補にもあがった女性作家アッティカ・ロックの『黒き水のうねり』では、この言葉が人種差別の撤廃を求め、結集を呼びかける急進派黒人たちのスロ…
わが国の読者に新作が届けられるのはなんと八年半ぶりというスティーヴ・マルティニだが、『策謀の法廷』はおなじみ弁護士ポール・マドリアニが、またもやめざましい活躍をみせる。 第一級謀殺の容疑で投獄されている依頼人のルイスは、二十年にわたる軍役を…
ジョン・グリシャムは、新作の『謀略法廷』でも、いまだ衰えない社会派としての意欲をうかがわせる。農薬工場が引き起こした水質汚染をめぐる公害訴訟で原告側に立った弁護士夫妻は、私財をなげうち、やっとのことで勝訴に漕ぎ着けた。しかし、被告の企業側…
司法制度における問題点のさまざまを浮き上がらせ、活発な議論を呼び起こしているわが国の裁判員制度だが、リーガル・フィクションの分野でも、そんなご時勢にお誂え向きの問題作が続々と紹介されている。 マイクル・コナリーの『リンカーン弁護士』もそのひ…
抱腹絶倒のユーモアと機知にとんだ面白さで喝采を叫ばせてくれたパーシヴァル・ワイルドの「検死審問」から一年。続編にあたる『検死審問ふたたび』が出た。タイトルどおり、前作の後日談で、今度は都会から越してきたパルプ作家が焼死した事件をめぐって、…
どっかで見たような邦題はちょっと頂けないが、(原題はAn Innocent Client)スコット・プラットの『最終弁護』は、法廷ものとして、いい具合に肩の力が抜けている。気持ちよくページをめくることができるという点で、ディヴィッド・ローゼンフェルトの「弁…
二○○六年の「再起」で作家として文字通りカムバックを果たしたというシナリオなのだろうけれど、どう考えても手綱を握っているのは息子のフェリックスなのだから、もうそろそろ父親ディックの方の名義は引っ込めてもいいのでは、と思ってしまう競馬シリーズ…
法曹界出身という点では、グリシャムよりも遥かにデビューが早いリチャード・ノース・パタースン(「ラスコの死角」でエドガー賞の新人をとったのは80年のこと)だが、ひと頃パタースンには小説から離れていた時期がある。惓土重来を期したわけではないのだ…
新訳で登場したパーシヴァル・ワイルドの『検死審問‐インクエスト-』は、遺言書を書き換えたばかりの売れっ子女性作家の屋敷で起きた猟銃による死亡事件をめぐって、田舎町の検死裁判が繰り広げるすったもんだを愉快に描いた逸品。有名な劇作家の余技的な作…