策謀の法廷[上下]/スティーヴ・マルティニ(扶桑社海外文庫)

わが国の読者に新作が届けられるのはなんと八年半ぶりというスティーヴ・マルティニだが、『策謀の法廷』はおなじみ弁護士ポール・マドリアニが、またもやめざましい活躍をみせる。
第一級謀殺の容疑で投獄されている依頼人のルイスは、二十年にわたる軍役をつとめた元職業軍人だった。退役後にサンディエゴの警備会社に就職したが、政府とも取引のあるソフトウェア開発会社の女性経営者が自宅で何者かに射殺された事件で、彼女の身辺警護に着いていた彼は、容疑者として逮捕された。被害者との間に体の関係があり、凶器の銃も容疑者のものと特定されるという不利な状況だったが、ルイスは無罪を主張。しかし、なぜか弁護士は裁判を目前にしながら、突如として担当を降りてしまう。急遽前任者のあとをうけたマドリアニは、パートナーのハリーとともに調査を進め、事件を国防総省から受注した国家規模のあるプログラムが事件に深い関わりを持っている可能性に行き当たるが。
マルティニの作家歴を振り返ってみると、初期のマドリアニものでリーガル・フィクションの旗手としての高い評価を得ながらも、やがて手がけた謀略小説の新機軸で却って存在感を薄めたうらみがあった。しかし本作では、基調をリーガルの分野におきながら、国家規模のスケールで大きな謎を実に鮮やかに料理してみせ、かつての寄り道もしっかり血肉とした作家の逞しさを見せる。さらに、好敵手の検事テンプルトンとの間で鍔ぜりあいを演じる法廷場面は、白熱した劇中劇ともいうべき面白さがある。マルティニの再評価をぜひとも促したい。
[ミステリマガジン2011年5月号]

策謀の法廷 (上) (扶桑社海外ミステリー)

策謀の法廷 (上) (扶桑社海外ミステリー)

策謀の法廷 (下) (扶桑社海外ミステリー)

策謀の法廷 (下) (扶桑社海外ミステリー)