黄昏に眠る秋/ヨハン・テオリン(ハヤカワ・ミステリ)

舞台を固定しての春夏秋冬をめぐる連作というと、スコットランド沖に浮かぶ島々を舞台にしたアン・クリーヴスの〈シェットランド四重奏〉がすぐに思い浮かぶが、ヨハン・テオリンの『黄昏に眠る秋』はスウェーデンの南東、バルト海上のエーランド島の移り行く四季を背景に収めたシリーズの第一作である。
その昔、ひとりの少年が島から忽然と姿を消した。以来、塊根の念はその母ユリアと祖父イェルロフを捕らえて離さなかった。しかし二十数年が過ぎ、迷宮入りして久しい事件に、突如として光明がさす。行方不明となった少年が履いていたサンダルの片方が、郵便で届けられたのだ。疎遠だった母親と祖父は、ぎこちないチームワークで少年の行方を再び探し始める。しかしその矢先、彼らに協力する祖父の友人の彫刻師が採石場で不審な死を遂げる。
台頭著しい北欧勢の中にあって、二度のCWA賞に輝く作者は、未紹介作家の切り札的な存在だろう。二十数年前に姿を消したわが子の行方を追う母親と祖父。一方故郷を追われ数奇な運命を辿った青年のストーリーが交互に語られ、やがて悲劇の物語として鮮やかなシンクロを見せていく。子を想う母親の精神状態がときに平衡を欠き、老人を蝕む老いと病の影が広がるなど、作中の空気は決して明るいものとはいえないが、その寒々しい世界の中でささやかな希望として描かれる血の絆の強さが印象的だ。過去と現在が交錯する一点に向けて物語が加速するスリルに加え、ミステリの興趣がしっかり絡んでくる展開も、ポイント高し。
[ミステリマガジン2011年7月号]

黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)