わたしを離さないで/マーク・ロマネク監督(2010・英米)

五年前に翻訳紹介された原作は、純文学系の作品でありながら、その年の〈このミス〉でベストテンにも滑り込んだ日系のイギリス作家カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』である。それを、デ・パルマの下についたこともあるというMTV世代の監督マーク・ロマネクが映像化し、ずいぶんと早い時期からYou Tube などで流れる予告編は、悲しくも美しい本編の仕上がりを予感させていた。果たして、やっと映画館で観ることができた作品は、期待にたがわぬ見事な出来映えといっていいと思う。
田園地帯にあって、外の世界とは隔絶されたヘイルシャムの寄宿学校で、厳しい規律と徹底した健康管理下、共同生活を送る少年少女たちには実は秘密があった。課せられたとある使命により、彼らは天寿を全うすることなく死んでいく運命を背負わされていたのだ。とまぁ、ネタばれしないように説明するのは実に難しい。原作を再読していないので確かなことは言えないが、映画の方が種明かしのタイミングがやや早いような気がする。そもそもミステリとして書かれたものではないので、そのあたりを論じてもあまり意味がないのかもしれないが、学校で創作活動を奨励していた理由が解き明かされる瞬間には、ミステリのスリルを強く感じた。
キャスティングでは、キャリー・マリガンアンドリュー・ガーフィールドキーラ・ナイトレイの三人の若き男女の個性際立たせた役作りや、出番は少ないが英国女性然としたサリー・ホーキンスの新任教師を演じた役どころも印象深い。そして忘れてはならないシャーロット・ランプリングの校長役も、最後の最後まで全体をきりりと引き締めている。多くを語らず、観るものに判断をゆだねた脚本とそれにマッチした詩的な映像が素晴らしい。
日本推理作家協会報2011年4月号]
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