13時間前の未来(上・下)/リチャード・ドイッチ(新潮文庫)

過去の改変とタイムパラドックスを主題にした小説は数多いが、リチャード・ドイッチの『13時間前の未来(上・下)』(新潮文庫)は、無残にも殺された妻の死を回避しようと、時間を遡りながら真犯人をつきとめていく男の物語だ。濡れ衣を着せられ警察から取り調べを受ける彼の目の前に、謎の初老の男が忽然と現われる。それを身につけていれば、過去へタイムスリップできるという懐中時計を男から手に入れた主人公は、時を越えた冒険へと乗り出していく。
3年ほど前に『天国への鍵』という作品が早川書房から紹介されているドイッチだが、十二章から始まるカウントダウン方式の物語の進行に思わずニヤリ。ややもすると筋の運びに荒さと無駄が見受けられるのが珠に瑕だが、妻殺しの犯人探しの興味が、やがてほぼ時を同じくして起こった旅客機墜落事故と結びついてくるあたりから面白さは加速する。時系列を逆にたどりながらの緊張感に溢れたユニークな読書体験をぜひ。
[波2011年3月号]

13時間前の未来〈上〉 (新潮文庫)

13時間前の未来〈上〉 (新潮文庫)

13時間前の未来〈下〉 (新潮文庫)

13時間前の未来〈下〉 (新潮文庫)